すい星はさりゆくとも やがて きたらむ
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
             
             
 夜の外は、静かで、星がまたたいていた。けれど、室内は、殺気だっ
ていた。男と女が、数フィート離れて立ち、お互いを憎しみに満ちた目
で、にらみつけていた。
 男のこぶしは、固く握られ、いまにもパンチを繰り出しそうであった。
女の指は、広げられ、かぎつめのようにカーブさせていた。しかし、ふ
たりとも、腕は、脇から離さなかった。ふたりとも、良識ある市民であ
った。



 

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「キライよ」と、女。声が低くなった。「アンタのすべてがキライよ」
「キサマの方こそ。キサマの贅沢のために、さんざんしぼり取られたあ
げく、こっちには、もう、キサマのエゴのために、バカなものを買わさ
れるカネさえ残ってないんだ」
「それは、ウソよ。アンタだって、それがウソだってわかってるはずよ。
アンタが、むかしのようにわたしに接してくれてたら、アンタだって、
おカネの問題じゃないってわかるはずよ。もんだいは、あの女よ」
 男は、1万回も同じことを聞かされた男がするように、ため息をつい
た。
「キサマだってわかってるだろ?」と、男。「彼女は、なんの関係もな
いって。ほんのすこしもね。キサマが、オレのやることにいちいち指図さしず
したんだ。ほんのささいなことにも。オレはあやまる気はないね。また、
同じことをするまでさ。
 キサマだって、チャンスがあれば、同じことをするだろう。ただ、そ
んなことのために、恥をかかされたくないね。オレの友人たちの前で」
「友人たちですって?あのヨタモノたちの意見の方が、アンタには大事
だっていうの?」


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            エピローグ
 
 目もくらむ閃光と焼けるような熱気。
 ふたりには、わかった。見えなくなった目で、互いの腕をとりあい、
残された数秒のあいだ、互いを絶望的に固く抱きしめた。最後の瞬間が、
今、重要なことのすべてだった。
「あいしてるよ」
「ジョン、ジョン、わたしの━━━」
 衝撃がやってきた。
 静かな夜は、昼と化し、巨大な赤の花がさらに、巨大化して、空をお
おいつつあった。
 直径30マイルのすい星の衝突は、水爆の1千億倍のエネルギーで
かくを溶かし、マグマの津波つなみは、高さ100マイルで30分後に地球の反
対側までくると、互いにぶつかりあって、波打った。
「チャップン、チャップン」
「チャップン」
 
 
                            (終わり)


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