あごひげ彩か
原作:フレドリックブラウン
アランフィールド
プロローグ
マリアンヌは、父親があごひげ
彩かなビリーを彼女の結婚相手にした
ことに、驚いた。悪く驚いた。
ビリーには不吉なものがあった。体格がよいことも、タカのような目
も、マリアンヌを見る目線も、不吉だった。それに、うわさがあった。
もちろんただのうわさだが、前になん人もの妻がいて、妻たちがどうな
ったか誰も知らないという。
クローセットの中になにか隠していて、奇妙な仕事をしていた。なか
を見たり、絶対にそこに入ったりしないように言われていた。
1
マリアンヌは、きょうまでは、ビリーの言うことを守っていた。クロ
ーセットのドアをあけようとして、カギがかかっていることを知っても、
やはり守っていた。
しかし、今、マリアンヌは、ドアの前にカギを持って立っていた。彼
女は、クローセットのカギだと思われるものを手にしていた。これは、
1時間前に、ビリーの室で見つけたものだった。ビリーのポケットから
落ちたもので、禁じられたクローセットのドアのカギ穴のサイズにあっ
ていた。
2
マリアンヌは、カギを試した。カギは合っていた。ドアがひらいた。
クローセットの中は、マリアンヌが無意識にでも見るのを恐れていた
ものではなかった。なにかもっと当惑するもので、ビックリするほど複
雑な電子部品の板が何枚も積み重なっていた。
「マリアンヌ」と、うしろで皮肉っぽい声がした。「それがなにか分か
るかい?」
マリアンヌは、振り返って夫を見た。「なぜか分からないけど、なに
かの機械かしら」
「そのとおり、マリアンヌ、無線機さ」と、ビリー。「ただし、ずっと
パワフルで高性能、恒星間通信もこなせる。それでいつも、ベヌースb
星と通信していたのさ。そう、オレは、そこから来た」
「でも分からないわ」
「分かる必要はないよ、ダーリン。話してあげるけど、オレは、ベヌー
スb星のスパイなのさ。いわば、調査員。地球を侵略するかどうか調査
している。
オレのあごひげはブルーだと言ったら、あるいは、クローセットに前
の妻の死体を見つけてたら、どうした?
マリアンヌ、きみはカラー音痴なのを知っている。父親はマリアンヌ
に、オレのあごひげは赤だって言ったろ?」
「そうよ、違うの?」
「ほんとうはね。父親はオレが外出するときに携帯染料で赤く染めた色
を見たのさ。しかし家にいるときは、自然なグリーンが好きなので、カ
ラー音痴の妻をもらった。違いが分からないからね。
いままでの妻たちは、みんなカラー音痴だった」
ビリーは、深くため息をついた。
エピローグ
「オレのあごひげの色にもかかわらず、みんな好奇心いっぱいになって、
マリアンヌのようにクローセットの中を見たがるのはなぜなんだろう?
お墓はそこにはない。屋根裏さ」
ビリーは、マリアンヌをがっしりつかんだ。
「おいで、ダーリン」と、ビリー。「お墓を見せてあげるよ!」
(終わり)