失われた文明3永遠の生命
原作:フレドリックブラウン
アランフィールド
プロローグ
20世紀に発見されたが失われた大きな発見の3番目は、永遠の生命
の秘密だった。
これは、はっきりしないが、モスクワのイバノビッチスメタコフスキ
ーという化学者が1978年に発見した。スメタコフスキーは、どのよ
うにして発見し、どのようにしてそれを試す前に有効なことを知ったの
かについての記録を残さなかった。2つの理由から、彼がそれを身が
凍
るほど
怖れていたからだ。
1
スメタコフスキーは、それを世界に発表することを怖れていた。自分
の政府にさえ、一度報告すれば、秘密はすぐに鉄のカーテンを漏れて、
世界に混乱をもたらすだろう。USSRはうまく処理できるだろうが、
ほかの野蛮で不道徳な国では、永遠の生命の薬は、たちまち人口爆発を
もたらし、それが文明化された共産主義国への攻撃につながることは、
ほとんど確実だった。
スメタコフスキーは、また、自分にそれを使うことを怖れていた。自
分が、永遠の生命を望んでいるのか分からなかったからだ。USSRの
国内だけでとどまって、外部に出て行くことがなかったとしても、永遠
にあるいはずっと長く生きることに、ほんとうに意味があるのだろうか?
彼が落ち着いたのは、時が来るまでは、自分の決心がつくまでは、そ
れを他人に与えることも自分に使うこともしないということだった。
一方、スメタコフスキーは、自分で作った薬を1回分だけ持ち歩いた。
不溶性の小さなカプセルに入るわずかな量だったので、口の中の義歯の
脇に取り付けた。それは、義歯と頬のあいだに安全に収まり、間違えて
飲み込んでしまう危険はなかった。しかしなにか必要なときが来たら、
親指のつめでカプセルを壊し、永遠の生命になることを決意した。
2
その日がくることになった。スメタコフスキーは、肺炎を患いモスク
ワの病院に入院した。そして、医師と看護婦が、彼が眠っているものと
思ってかわした会話から、あと数時間の命であることを知った。
死の怖れが永遠の生命の怖れを上回った。永遠の生命がなんであれ、
医師と看護婦が室を出てゆくとすぐにカプセルを壊し、薬を飲み込んだ。
死がそれほどさし迫ったものでなければ、薬は彼の命を救うよう働く
と予想していた。薬はちゃんときいたのだが、そのときには、彼は昏睡
状態に陥っていた。
3
3年後の1981年、スメタコフスキーは、まだ、昏睡状態のままだ
った。ロシアの医師は、最終的な診断をくだし、あれこれ悩むことをや
めた。
明らかに、スメタコフスキーは、医師たちが分離したり分析できない
ような、ある種の永遠の生命の薬を服用した。そして、それが、彼を死
なないように保ち、疑いもなく、永遠でないにしてもずっと生かしてい
た。
エピローグ
しかし、不運にも、薬は、スメタコフスキーの体にいた肺炎球菌にも
永遠の生命を与えてしまった。そのバクテリア(肺炎双球菌)は、スメ
タコフスキーを肺炎にしたものだが、今や永遠に生き続けた。それで医
師は、みんな現実主義者で彼を永遠に世話する必要はないと気づくと、
死んだことにして、すぐに埋葬してしまった。
(終わり)