ナスティ
原作:フレドリックブラウン
アランフィールド
プロローグ
ウォルタービュレガードは、この50年間というもの、情熱的にして、
完成された好きものであった。今、65才の年になって、好きもの協会
の会員資格をなくすかもしれない危機を迎えた。なくす危機?いや、正
直に言おう、彼はなくしたのだ。この3年間、彼は、医者から医者、偽
医者から偽医者、妙薬から妙薬へと渡り歩いた。すべては、まったく、
なんの効果もなかった。
1
ついに、ビュレガードは、占いや魔法の本を思い出した。膨大な蔵書
の一部として、集めたり、読んだりするのを楽しんでいた。しかし、そ
れらを、まじめにとらえたことはなかった。今までは。今、彼に、なに
か、失うものがあっただろうか?
かびの生えた、悪のにおいのする、稀少本の1冊に、求めるものを発
見した。書かれているとおりに、5頂点の星型を描き、秘密のマークを
コピーして、ろうそくに火をともした。そして、呪文を大声で唱えた。
1筋の閃光のあと、煙が舞った。そして、悪魔。悪魔を、あなたが好
きにはなれないことは保証するが、どんな姿か述べるのはやめておこう。
「きみの名前は?」と、ビュレガード。声を一定にしようとしたが、す
こし震えていた。
悪魔は、叫び声と口笛の中間のような声を出した。大きなバイオリン
を、のこぎりで弾いたときに出る倍音を伴っていた。
「そうだね、おまえには、発音することができないよ。おまえたちのゆ
るい言語では、翻訳すると、ナスティかな。ナスティって、呼んでくれ
たまえ!おまえのほしいものは、ふつうのものかい?」
「ふつうのものって?」と、ビュレガード。知りたがった。
「もちろん、願いさ」と、ナスティ。「よし、おまえに1つ叶えてやろ
う。しかし、3つじゃない。3つの願いなんてのは、ただの迷信さ。叶
えられるのは、1つだけ。好きになれんかもしれんが」
「1つで、十分です。好きになれないなんて、とんでもない!」
「そのうち、分かるさ。よし、おまえの願いは、知っている。ここに、
その答えがある」
ナスティは、手をのばして、空気が希薄になったところに入れると、
手が消えた。そして、手を戻すと、銀の水泳トランクスを2つ持ってい
た。
「健康のために、2つとも着るといいよ」と、ナスティ。ビュレガード
に、差し出した。
「なんです?」
「なんに見える?水泳トランクスさ。しかし、特別製。素材は、今から
数千年先の、未来のものでできている。けっして破壊されることがない。
すり減らないし、裂けないし、切れることもない。すばらしい素材さ。
しかし、使われている魔法は、かなり古いものだ。使ってみれば、分か
るよ」
悪魔は、消えた。
2
ウォルタービュレガードは、着ているものを急いでぬいで、美しい銀
の水泳トランクスを2つともはいた。すぐに、すばらしさを感じた。活
力が、体内を流れた。好きものキャリアを始めたばかりの頃の、若者に
戻ったように感じた。
急いで、ローブを着て、スリッパをはいた。
(彼が、金持ちであったことを述べただろうか?住まいは、アトランテ
ィックシティの高級ホテルの最上階のペントハウスだということも?ど
ちらも、そうだったのだ)
彼は、プライベートエレベータで下へ降り、ホテルの中庭にある豪華
なプールへ出た。そこは、いつものように、ゴージャスなビキニ美女た
ちに囲まれ、彼女たちは、日光浴をしているふりをしながら、ビュレガ
ードのような、金持ちの男たちからの申し出を待っている場所だった。
ビュレガードは、選ぶのに時間をかけた。しかし、それほど長くはか
けなかった。
エピローグ
2時間後、彼は、まだ、すばらしい魔法のトランクスをはいたままで、
ベッドのはじに腰掛けて、ベッドで寝息をたてている、ブロンド美女を
見て、ため息をついていた。
ナスティは、正しかった。そして、意地悪という意味だったから、名
前にふさわしかった。奇跡のトランクスは、けっして破壊されることが
なく、裂けないトランクスで、完璧に動作した。しかし、トランクスを
ぬぐと、あるいは、ぬごうとしただけで━━━。
(終わり)