青の悪夢
原作:フレドリックブラウン
アランフィールド
プロローグ
彼は、今まで見たことのないような輝く青の朝に目覚めた。ベッドの
脇の窓から、ほとんど信じられない青空が見えた。ジョージは、すぐに
ベッドからすべり出ると、完全に目覚め、休暇の1日目のほんの1分も
無駄にしたくなかった。しかし妻を起こさないように、静かに服を着た。
休暇のために1週間友人から借りたロッジに着いたのは、昨夜遅くで、
ウィルマは旅にとても疲れていて、すこしでも長く寝かせてあげたかっ
たのだ。靴も居間に行ってからはいた。
1
息子のトミーは、まだ5才だが、髪をくしゃくしゃにして、寝ていた
子ども室から出てきて、あくびをした。
「朝ごはんは、いるかい?」と、ジョージ。トミーはうなづいた。「服
を着てから、台所に来なさい」
ジョージは台所に行ったが、朝食を始める前に、外のドアを出て階段
の下で、まわりを見渡した。昨夜着いたときは暗かったので、このあた
りがガイドブック通りなのか分からなかった。そこは、原生林でおおわ
れ、今まで見たどの写真より美しかった。話では、1番近い隣りのロッ
ジまで1マイルもあって、かなり大きな湖の反対側だそうだ。湖は、そ
こからでは木が邪魔して見えなかった。しかし、台所のドアのここから
始まっている小径が、ほぼ1/4マイル先の湖まで続いていた。友人の
話では、湖は泳ぐのもいいし、つりにもいいそうだ。泳ぎに、ジョージ
は関心がなかった。水がこわくはなかったが、好きではなかったので、
泳ぎも習わなかった。しかしウィルマは泳ぎがうまく、トミーもそうだ
った。ウィルマはトミーを、水泳チームの万年レギュラーと呼んでいた。
2
トミーは、階段まで出てきた。トミーにとって、服を着るとは、水泳
トランクスを2枚はくことなので、すぐだった。
「ダディ!」と、トミー。「朝食の前に、湖を見ても、いいでしょ?」
「もちろん!」と、ジョージ。空腹でなかったし、たぶん、ウィルマが
起きるころには戻れるだろう。
湖は、美しかった。青空よりもっと碧い青だった。湖面は鏡のように
滑らかだった。トミーはうれしそうに湖に飛び込んだ。
「トミー!」と、ジョージ。「浅いところにいなさい!泳いでいっては
ダメだよ!」
「ぼくは大丈夫、ダディ!泳ぎが得意なんだ」
「ああ、そうだけど、ママが来るまでは、近くにいなさい!」
「水は、あったかいよ、ダディ!」
遠くで、魚が跳ねた。朝食のあと、釣竿をもってきて、ランチのため
の魚が釣れるか試してみよう。
話では、湖沿いに道があって、2マイルのところにレンタルのボート
屋があるそうだ。ボートを1隻1週間レンタルして、ここにつないでお
こう。ジョージは、そのボート屋が見えないか、湖の端まで目をこらし
た。
3
突然、冷酷にも、苦しそうな叫び声がした。
「ダディ!ぼくの足が━━━」
ジョージは、すぐにトミーの頭を見つけた。少なくとも20ヤード先
だった。頭は沈んでふたたび浮かんだ。トミーがまた叫ぼうとして、ゴ
ボゴボいう大きな音になった。足がつったのだ。ジョージは、必死に考
えた。トミーがこのくらいの距離を泳ぐのは、なんども見ていた。
一瞬、ジョージは、もうすこしで水に飛び込みそうになった。しかし、
自分に言い聞かせた。トミーを助けようとして自分が溺れてしまっては、
なんの助けにもならない。すぐにウィルマを呼びに行った方が助かるチ
ャンスがあるだろう。
ジョージは、ロッジへ走った。
「ウィルマ!」と、ジョージ。100ヤード手前から、力の限りを尽く
して叫んだ。
台所のドアに着くまでに、ウィルマはパジャマのままドアから飛び出
してきた。湖に向かってジョージについて走ったあと、すでに息切れし
ていたジョージを追い抜き、湖の端に着いたときには、50ヤード先に
行っていた。ウィルマは、水に飛び込むと、トミーの頭が水面に一瞬見
えた場所まで力強く泳いだ。
エピローグ
ウィルマは、数回のストロークで泳いで、トミーをかかえると、ター
ンしようとして、足を下にけった。そのとき、突然、ジョージは、身も
凍るホラーを見た。ウィルマのブルーの目に映ったホラー。彼女が溺れ
た息子を抱きかかえて立ち上がった場所は、水深がたったの3フィート
だった。
(終わり)