白の悪夢
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
             
 彼は、突然目覚めた。完全に目覚めていて、眠るつもりもなかったの
に、なぜ眠ってしまったのかと訝りいぶかながら、すぐに腕時計の蛍光文字板
を見た。文字板がなければ真っ暗闇の中で、明るく光っていた。11時
数分過ぎだった。彼はホッとした。ほんの少し、うたた寝しただけだっ
た。このソファに横になってから、まだ30分もたっていなかった。妻
がおやすみを言いに来るには、まだ早い。彼の姉が、完全に眠り、寝息
をたてるまで待ってからだ。
 



 

2

1
























































            1
 
 それは、バカらしい話だった。ふたりは、3週間前に結婚したばかり
で、ハネムーンの帰りだった。ふたりが別々に寝るのは、これが初めて
だった━━━すべては、彼の姉のデボラが、帰り道の途中にある自分の
アパートに泊まってゆくよう、バカらしい提案をしたからだ。あと4時
間のドライブで帰れるのに、デボラは譲らず、主張を押し通した。結局
彼は、1晩くらい別々に寝ても、疲れがとれて、つぎの朝、新鮮な気持
ちで最後のドライブができていいかもしれないと考えた。
 デボラのアパートは、寝室はもちろん1つだったので、彼女の誘いを
受けるにあたって、彼と妻のベティが寝室で、デボラが別にという申し
出は受けられないことが分かっていた。いくら愛するオールドミスの姉
からの申し出だとしても、歓待にも限度というものがあった。
 しかし確かなことは、あるいは、ほとんど確かなことは、ベティは、
デバラが眠るまで待ってから、ほんの少しの時間だとしても、彼におや
すみを言いに来ることだ。もしもベティが、おやすみ以上のものがほし
いというのなら、デボラを起こすような音を出さない限りで、応じるつ
もりだった。



4

3
























































            2
 
 たしかに、彼女は、今ドアを暗闇の中ですばやくあけ、すぐに閉めた。
ドアのかすかなカチッという音だけ聞こえた。つぎに、やわらかいサラ
サラした音、ナイトガウンかネグリジェが落ちる音がした。そして、ソ
ファの彼の毛布の中に入ってきた。
「ハニー」と、彼。
「しっ!」と、彼女。
 しかし、これ以上の言葉が必要だろうか?

            エピローグ
 
 長いようで短い時が流れ、ドアがふたたびあいた。
 ぎらぎら輝く光が射し込んで、白のホラーに、凍ったように立ったま
ま叫び声を上げようとしている、妻のシルエットを浮かび上がらせた。
 
 
 
                            (終わり)


6

5