ロープ魔術
            原作:フレドリックブラウン
            アランフィールド
             
            プロローグ
             
 ジョージダネル夫妻は━━━妻はエルシーで、ふたりは、世界1周の
ハネムーン中だった。20年目の結婚記念日からはじまった2度目のハ
ネムーン。最初のときは、ジョージが30代、エルシーが20代だった。
ということは、今は、ジョージが50代、エルシーが40代だった。
 不惑の40代は━━━この言葉は、男性だけでなく女性にもあてはま
るが、この2度目のハネムーンの最初の3週間で起こったことに、より
正確には、起こらなかったことに、とてもとても失望していた。正直に
言えば、ほんとうになにも、まったくなにも起こらなかった。



 

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 カルカッタに着くまでは。
 ふたりは、お昼すぎにホテルにチェックインして、市街地の大半を半
日かけてゆっくり見たあと、夕方までそこで過ごすことにした。
 ふたりは、バザールに来た。
 そしてそこで、ヒンズー教の行者のロープ魔術を見学した。よくある
インドのロープ魔術━━━少年がロープを登ってゆくような大規模なも
のではなく、ずっとシンプルだった。
 行者は、目の前のトグロを巻いた短めのロープの前で、フラジォレッ
トでシンプルな音律をなんども吹くと、徐々にロープが登りはじめ、最
後には垂直になった。
 エルシーダネルは、これを見て、いいアイデアを思いついた。
 エルシーは、ジョージとホテルに戻ってディナーのあと、ジョージが
いつものように9時にベッドに入るまで待った。
 それから、ホテルの室を出ると、タクシーと通訳を見つけて、バザー
ルへ戻り、さきほどの行者のところへ行った。エルシーは、通訳を通じ
て、フラジォレットを買った。そして、ロープ魔術のシンプルな音律の
吹き方をお金をだして教えてもらった。


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 エルシーは、ホテルの室に戻った。ジョージは、いつものようにいび
きをかいていた。エルシーは、ベッドの脇に立って、とてもソフトにフ
ラジォレットで、習ったばかりのシンプルな音律を吹きはじめた。
 なんども、なんども。
 シンプルな音律にのって、眠っているジョージのシーツが徐々にあが
りはじめた。じゅうぶんな高さになると、フラジォレットを置いた。


            エピローグ
 
「ギャーッ!」と、エルシー。歓声をあげて、シーツをめくった。
 空中で垂直になっていたのは、ジョージのパジャマのヒモだった。
 
 
 
                            (終わり)



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