オブライエンの孤独
               ポールロバートコイル
                
            プロローグ
             
 シャトルが1台、近づくと、ワームホールがひらき、シャトルは、そ
のまま吸い込まれるように、ワームホールの中へ入って行った。
「コンピュータ、方位410、マーク32」と、オブライエン。
「設定しました」と、コンピュータ。
「ワープを、最大出力にせよ!」
「ピュルピュル、ピッ」と、コンピュータ。
「パラダ星系までは?」
「1時間14分です」
「新しくファイルを作成しろ!オブライエン、個人日誌、宇宙暦475
81・2」
 オブライエンは、パイロット席で、話し続けた。



 

2

1





「過去、52時間に起こったことを、整理しておこう。誰がこの記録を
聞くのか━━━いや、そのときまで、自分が生きているかどうかも、分
からない」
 オブライエンは、立ち上がり、声を出しながら、考えた。
「彼らは、ぼくを、ってくるだろう。ぼくが、パラダ星系に行って、
警告するのを、彼らは、許すまい」
 そして、デュブリケータに、命令した。
「コーヒーを!ジャマイカンブレンドの、濃くて、甘いやつを」
「ピューピピピ」と、デュブリケータ。入れたてのコーヒーカップが現
われた。
「彼らの、正体は、分からない。今回の事件は、なぞに満ちたことだら
けで、分からないことばかりだ」
 オブライエンは、カップを手に、パロット席に戻った。
「なにが、どうなっているのか、さっぱり、分かりやしない。最初に気
づいたのは、これは、変だと思ったのは、いつだったろうか。今から、
思えば、そうだ━━━」
 
               ◇
 
「あれは、ステーションに戻ってきた、翌朝のことだ」

4

3





 オブライエンは、ベッドで寝返りをうつと、となりにケイコがいない
のに、気づいて、起き上がった。
 
               ◇
 
 キッチンテーブルで、モリーとケイコが朝食をとっていた。
 ドアがあいて、オブライエンが入ってきた。
「ずいぶん、早起きなんだな」と、オブライエン。
「ええ、学校の仕事が最近、たまっちゃっているから、今朝け さは、早く、
行こうかと、思って」と、ケイコ。
「でも、まだ、5時半だぞ?」
 オブライエンは、デュブリケータに、命令した。
「ジャマイカンブレンドの、濃くて、甘いやつを」
「ピューピピピ」と、デュブリケータ。
「読まなければならない、作文があるの」
「よく眠れたかい、モリー?」
 オブライエンは、モリーに話しかけた。
「あっちに行って!」と、モリー。
「パパに、おはようのキスは?」
「やだ」

6

5





 モリーは、室を出て行った。
「オレがなにをしたって、言うんだい?」
「ちょっと、機嫌きげんが悪いだけよ!」と、ケイコ。「子どもって、そうな
の!」
「ええ?」
「いちいち、気にしないで!」
 ケイコは、皿を片付け始めた。
「きのうは、何時に寝たんだ?」と、オブライエン。
「けっこう、遅かったわ」と、ケイコ。「あなた、よく、寝てたわね」
「ああ、ぐっすりだよ。今回の出張は、きつかったからね」
「なにを、やらされたの?」
「パラダ人かい?今度、行われる、和平交渉に備えての警備を、実際に、
やらされてね。へっ!もし、オドーが消えたら、たいへんだろうな」
「そろそろ、行ってきます」
「じゃあ、モリーは、ぼくが、保育園に送ってゆくよ!」
「いえ、いいのよ!いっしょに連れてゆくから!モリー!」
「学校へか?だって、作文を読むんだろ?連れっていっちゃ、読めない
だろ?」
 モリーは、走ってきて、ケイコに抱き上げられた。
「モリーに見せたいものが、あるのよ。バルカンのプログラムでね、子

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7





どもの問題解決能力を、引き出すの」
「朝、5時半からかい?」
「朝は、頭が、シャキッっとしてるでしょ?」
「ふーん、ま、がんばって!」
「行ってきます」
 ケイコは、モリーを抱いたまま、玄関を出ていった。
 
               ◇
 
 ステーションのメンテナンスルーム。
 オブライエンが入ってきた。すでに、部下のひとりは、センサーでリ
レーをチェックしていた。
「どうしたんだ?」と、オブライエン。
今朝け さ早出はやでしたんです」と、部下。
早出はやでね。今朝け さは、だれもかれも、早起きだとみえる」
「は?」
「デカーティス、仕事熱心なのは、非常にありがたいんだが、この仕事
はな、オドーがベイジョーから戻るのを待って、やるつもりだったんだ。
和平交渉に備えて、セキュリティネットを再編成するのに、オドーを無
視するわけに、いかないだろう?」

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「あ、でも、シスコ司令官は、かまわないからと」
「司令官が、始めていいって、言ったのか?私に相談もなく、そんなは
ずは、ない!」
「でも、そうなんです。私は、指示に従っているだけです」
「司令官に、確かめてくる」
「あの、チーフ?」デカーティスは、センサーをふった。
「続けておけ!」
 オブライエンは、司令部に向かった。
 
               ◇
 
 ステーションの通路。
 オブライエンは、立ち止まった。ベイジョーの人で混み合う通路の先
に、ケイコが、シスコと、立ち話をしていた。
 シスコは、話を終えて歩いてきた。オブライエンは、身を隠した。
 
 氷をまき散らしながら、飛行する、彗星すいせい
 その先に、宇宙に浮かぶ、DS9スディーエスナインテーション。
 カーデシアの3点脚の神殿造りつくり
 ディープスペースナインのタイトルコール。

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            1
 
 ワープで航行する、シャトル。
「パラダ星系まで、あと、どのくらいだ?」と、オブライエン。
「53分です」と、コンピュータ。
「センサーを、ワームホール方位へ!」
「ピュピュピュ!」
「こちらへ向かった、ワープサインは、ほかにないか?」
「1つ、ワープサインを確認」
「ディスプレイしろ!」
 ディスプレイに、船影が映った。
「どこの船だ?」
「所属先、および、船名は、宇宙艦隊の、メコンです」
「そうか、やっぱりな!こっちが、ワープするのを、待ってたわけか。
ふん、ま、橋を渡らなきゃならないときも、あるかな?」
「その質問は、理解できません」と、コンピュータ。
「ああ、今のは、無視してくれ!」
 オブライエンは、話題を変えた。
「個人日誌に戻って、さて、とにかく、妙なかんじがしたんだ。でも、
あの時点でも、分からなかった。みんなの考え方は、まるで、ぼくに内

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緒で、こっそり、パーティを計画しているような、そんな、かんじだっ
た。でも、ぼくの誕生日は、9月で、ほかにお祝いをするようなことは、
なにも、思いあたらなかった」
 オブライエンは、ブリッジを通り抜けようとした。
 キラ少佐と、ダックス中尉、ドクターベシアがいた。
「ああ、やっと、現われたぞ!」と、ドクターベシア。近づいてきた。
「ずっと、きみを、待ってたんだ!」
「なにか、ご用ですか?」と、オブライエン。
「きょうは、言い訳は、聞かないぞ!」
「言い訳ですって?」
「1時間以内に、医務室に来い!」
「なぜ、です?」
「定期健診だよ。ずっと、のびのびになっているぞ!」
「でも、きょうは、無理ですよ!」
「なにが、無理なんだ?司令官にも、許可をいただいてあるんだ」
「司令官に?なんで、そんな、余計なことを?」
「しかしだね、チーフ!いやがる気持ちも、分かるが、しかし━━━」
「お断りです。きょうは、忙しいんだ」
「いや、きょうこそは、受けてもらうぞ!いざとなったら、きみの上官
として、命令を出す!本気だよ!」

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 そこへ、シスコが、現われた。
「どうか、したのか?」と、シスコ。
「ミスターオブライエンが言うには」と、ドクターベシア。「きょうは、
健診は、受けられないと」
「仕事は、都合して、受けてくれ!」
「司令官!」と、オブライエン。
「ドクターは、来週までに、スタッフの健康状態について、宇宙艦隊に
報告しなければ、ならない」
「了解!」と、オブライエン。そして、ドクターベシアに。「ちゃんと、
1時間後に、行きます」
 ドクターベシアは、医療室に戻っていった。
「司令官、すこし、よろしいでしょうか?」と、オブライエン。
 シスコは、うなづいて、司令官オフィスに入った。
「デカーティスは、きみが、おこっていたと」と、シスコ。
「いえ、おこっていたわけじゃ」
「きみが、おこるのも、当然だ。きみに、ひとこと、断っておくべきだ
ったな。私の、完全な、采配さいはいミスだ」
 シスコは、イスについた。
「なんとなく、カヤの外におかれた、気がしただけです」
「悪かったな。きみの報告を読んだが、パラダ人が、神経をとがらせて

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いるようだな」
「ええ、少々、気にしすぎですよ。ま、12年も内戦状態にあったんで
は、仕方がないんですがね」
「ほかに、なにか、気づいたことは?パラダ人を迎えるのに、留意すべ
き点は、ないか?」
「いえ、ほかには、特に、ありません。報告に書いたとおりです」
「チーフ、報告書以外のことも、聞きたいね」
「はぁ?」
「報告書に書けなかったことでもいい。なにか、役にたつことは?」
 オブライエンも、座った。
「そうですね、なにか、あったかな?そういえば、1つ、気づいたこと
があります。お役に立つかどうか、分かりませんが。パラダ人には、体
臭があるんですよ。そのにおいは、皮膚から出るもののようですが、気
分で、変わるんですよ。おこると、体臭が強くなるんです」
「そうか。じゃ、おこらせないようにしよう」
「そうですね」
「あちらの指導者からは、定期的に連絡が入るんだが、セキュリティに
関しては、細かい注文が来ているよ」
「私が見ましょう!」
「もちろん、最終的には、きみに見てもらいたいがね。現場の作業は、

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部下にまかせても大丈夫だろ?それより、大問題があってね」
「なんです?」
「上部目標塔が、また、ダウンしたんだ」
「そんな、バカな!戻ってきて、チェックしたばかりなのに!圧力ロッ
クも、正常に機能していたんですよ!」
「もう、一度、見てくれ!今朝け さも、ボリアンの貨物船を、牽引けんいんする騒ぎ
だったよ」
「大きな故障のはずは、ありません。サブシステムは、ぜんぶ、私が作
ったんです。すぐに、取りかかります」
 オブライエンは、立ち上がって、ドアに向かった。
「その前に、健診を受けてこい!」
「了解」オブライエンは、開いたドアの前に立った。「ところで、今朝け さ
学校の前で、妻と、お話しになっておられましたね?なにか、あったん
でしょうか?」
「ああ、ジェイクの成績のことで、ちょっとね」
「ふーん、そうですか、それは、たいへんですね。でも、ジェイクは、
いい子だ。勉強すれば、すぐ、追いつきますよ」
「どうもありがとう」
 オブライエンが出てゆくと、シスコは、報告書のパッドを持ち上げた。
 

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               ◇
 
 医務室。
 ドクターベシアは、オブライエンの頭を、センサーで調べていた。
「まだ、かかるんですか?」と、オブライエン。「体じゅうの穴に、検
査機械を突っ込んだ上に、新しい穴まで、あける気?」
「めまいはしない?」と、ドクターベシア。「つい、寝過ごす、体がだ
るい、すぐ、ハイになる?」
「全部、あてはまりますよ!とくに、最近、すぐに、ハイになっちゃう
ことが多くて!」
「おい、まじめに!」
「ねぇ、ドクター!悪いところが見つかるまで、医務室を出さないつも
りですか?ぼくは、健康なんですよ!」
「目は、大丈夫?耳は?頭痛は?」
「頭痛なら、今、頭が、どんどん痛くなってきたとこですよ!」
 ドクターベシアは、センサーを置いて、パッドに記録した。
「短気な性格。ちょっとした挑発で、すぐに、カッとなりがち。ただし、
正常の範囲内ではある」と、ドクターベシア。
「楽しそうですね、ドクター」と、オブライエン。
「どうやら、きみは、医者が嫌いらしいね」

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「ぼくが嫌いなのは、医者じゃない!あなたですよ、ドクター!」
「ま、きみの冗談のセンスは、正常らしい!」
「そんな、センスはありませんよ!」
 ドクターベシアは、オブライエンの背中に手をおいた。
「せきをして!」
「ごほん!ごほん!」と、オブライエン。
「夫婦仲は?」
「そういう冗談は、お断りです」
「せきをして!」
「ごほん!」
「ほんとうに?」
「そんなことは、宇宙艦隊とは、関係ないでしょう?」
「ご両親は、健康かな?」
「なに言っているんです!母が、2年前に亡くなったことを、知ってる
でしょ?」
「そうだっけ?」
「春に、おやじが再婚したとき、グチを聞いてくれたじゃないですか!
お父さんの幸せを考えてやれと言ったのは、ドクターでしょ?」
「そうだった、思いだしたよ━━━」
「もう、終わりですか?」

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「いや、まだだ。あと、ひとつ、ふたつ、検査が残っている」
 オブライエンは、立ち上がった。
「いい加減にしてくださいよ!こんなに長くかかる、健診なんて、初め
てだ!死にかけてるわけでもないのに、なんで、こんな、しつこく━━
━」
 オブライエンは、なにかに気づいた。
「待てよ、じゃ、もしかしてそうなのか?まさか、オレは、どこか、悪
いんですか?だから、みんなが、あんな態度で━━━」
「大丈夫だよ、チーフ!」と、ドクターベシア。
「検査結果は、すべて、正常。もう、帰っていいよ」
「ふぅー」
 オブライエンは、医務室を出て行った。
 ドクターベシアは、パッドを見ながら、不思議そうな表情になった。
 
               ◇
 
 ステーションのプロムナード。
 ベイジョーの人々や、異星人が行きかっていた。
 オブライエンが歩いていると、ジェイクに、呼び止められた。
「あ、チーフ!」と、ジェイク。

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「やぁ、ジェイク」と、オブライエン。
「お願いがあるんです!」
「どんな、ことだい?」
「課題で、亜空間トランシーバーを作っているんですけど、どうやった
ら、エミッタークリスタルが動くのか、分からないんです」
「ああ、亜空間トランシーバーか。ぼくも、きみぐらいの頃、作ったよ。
いいよ、見てあげよう」
「だけど、奥さんから、しかられませんか?ケイコ先生から」
「一応、ケイコには、言うけどね。平気だろ。それに、課題をがんばれ
ば、成績だって、上がるだろうからね」
「いえ、オールAですよ!でも、下がりたくないから!」そう言って、
ジェイクは、去っていった。
 オブライエンは、立ち止まって、かすかな違和感を覚えた。








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            2
 
 上部目標塔の修理用通路。オブライエンが、ひとり、修理をしていた。
「ジェイクの成績のことは、ウソだったが、目標塔の故障は、ほんとう
だった」と、オブライエンの声。個人日誌に。
「しかし、妙な話だ。新しく付け替えておいた、圧力ロックは、正常に
動いているのに、故障の原因は、ほかの箇所のはずだ。調べてみたが、
原因を突き止めるには、しばらく、かかりそうだった。パラダ人を迎え
るため、セキュリティを整備しなくてはならなかったのに、私は、修理
に、手一杯だった」
 
               ◇
 
 ステーションの通路。
 デカーティスは、パラダ人用ゲストルームの前のパネルで、作業して
いた。
 オブライエンが、歩いてきた。
「どうだ、デカーティス?」と、オブライエン。
「チーフ!目標塔の修理は、終わったんですか?」と、デカーティス。
「いやぁ、まだだ。休憩に出るついでに、寄ってみたのさ」

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 デカーティスは、パネルを閉じた。
「すべて、予定通りです。パラダ人が泊まる室は、すべて、チェック済
みです」
「よし、あけてみろ!私が、確認する」
「ああ、それは、できません」
「これは、命令だ!」
「あ、でも、あけると、緊急事態が、発令はつれいされてしまいます。アクセス
コードは、キラ少佐しか━━━」
「オブライエンより、キラ」と、オブライエン。胸の通信バッジに。
「どうしたの、チーフ?」と、キラ少佐。通信バッジから。
「パラダ人の室の、アクセスコードを教えてください」
「チーフ、そこで、なにをしている?」と、シスコ。通信バッジから。
「司令官!」と、オブライエン。「私は、先週一杯かけて、ここのセキ
ューリティを考案したんです。だから、最後の確認を━━━」
「それより、上部目標塔の修理を、急げ!そちらが、優先だ!分かった
な?」
「分かりました」
 オブライエンは、デカーティスを見てから、なにも言わずに、歩いて
いった。
 デカーティスは、オブライエンがかどを曲がってから、パネルにコード

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を入力して、室に入った。
 オブライエンは、通路のかどから、その様子をうかがっていた。そして、
不思議そうな顔をした。
 
               ◇
 
 ステーションのプロムナード。
 オブライエンは、歩いていると、ジェイクに呼び止められた。
「チーフ!」と、ジェイク。「亜空間トランシーバーのインバーターは、
これで、いいの?」
 オブライエンは、渡されたインバーターを手に取った。ふたりは、歩
きながら、話した。
「ハハ、どこで、見つけた?」と、オブライエン。「子どもの頃は、よ
く見た、モデルだが」
「複製したんです。図書館の、ものすごく古いデータファイルに、デザ
インがのっていたから」
「ものすごく古いファイル?」
「すいません!ぼく━━━」
「いいんだよ、気にすんな!それじゃ、きょうの夜、ぼくのうちに来な
いか?組み立てるのを、手伝うからさ」

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「ええ、うかがいます」
「ジェイク、ぼくが、ガンマ宇宙域に行っていたあいだ、ステーション
で、なにか変なことが、なかったかい?」
「ジェイク!」と、キラ少佐。プロムナード上部の手すりから。「お父
さんが、捜してたわよ。今、うちに帰られたわ。大事な話があるみたい」
 ジェイクは、立ち止まった。
「じゃ、今夜」と、言って、ジェイクは、帰っていった。
「修理のほうは、どうなの?」と、キラ少佐。オブライエンに。
「ええ、順調にいってます」と、オブライエン。
 キラ少佐は、戻っていった。
 
               ◇
 
 上部目標塔の修理用通路。オブライエンが、ひとり、修理をしていた。
「その日、一日を、私は、修理に費やした」と、オブライエンの声。個
人日誌に。
「わらの中から、針をさがす作業、ついに、RFパワーコンジットに、
ひびを見つけた。どうして、システムの、こんな深いところが、こわれ
るのか?誰かが、わざとやったとしか、思えなかった」
 

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               ◇
 
 オブライエンの室。
 ドアがあいて、オブライエンが帰ってきた。
「疲れた?」と、ケイコ。テーブルに、飲み物を運んできた。
「ああ、きょうは、もう、ぐったりだよ」と、オブライエン。ソファー
に、座った。
「食事の前に、すこし、休む?」
「いや、ジェイクが来ることに、なってるんだ。課題を、手伝う約束で
ね」
「あ、それなら、司令官から連絡があったわ。ジェイクは、気分が悪い
から、来られないって」
「ほんとか?さっき、会ったときは、元気だった」
「でも、子どもって、そういうものよ。きっと、学校帰りに、プロムナ
ードで、変なものでも、食べたんでしょ?」
「モリーは、どうした?」
「きょうは、フレデリックソンさんのお宅に、おとまりよ」
 オブライエンは、立ち上がり、テーブルで食事の用意をしている、ケ
イコに近づいた。
「じゃあ、今夜は、ふたりきりだな」と、オブライエン。

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「あ、料理が冷めないうちに、いただきましょ!」
「レプリケータが、あたためてくれるよ!さぁ、ゲームしよう!」
 ケイコは、目を見開いて、オブライエンを見ていた。
「どうしたんだ?」
「いえ、なんでもないんだけど、ゲームする気になれないの。なんだか、
疲れちゃって」
「分かった。じゃ、食べよう!」
 ケイコは、レプリケータを操作して、料理をテーブルに並べた。ふた
りは、テーブルについた。
「これ、なに?」と、オブライエン。
「フリカンドシチューよ」と、ケイコ。
「でも、きみは、嫌いだろ?」
「好物でしょ?」
「そりゃ、ぼくはね」
「今夜は、あなたの好きなものに、しようと思って。出張中は、向こう
が出すものを、食べさせられるでしょ?あとは、エンダイブのサラダと、
デザートは、甘いフランよ」
「そうかい。やさしいね!ありがと!」
 ケイコは、サラダを食べ始めた。
「きみは、シチューは?」

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「わたしは、サラダだけで、いいわ!」
「サラダだけ?」
「お昼が、遅かったから━━━」
 オブライエンは、皿に盛られた、シチューを、フォークでほぐした。
「食べないの?」と、ケイコ。
 オブライエンは、シチューをひと口、口へ持っていった。それを、ケ
イコが見つめていた。
「やっぱり」オブライエンは、食べないで、フォークを置いた。「すこ
し、休んでくるよ」
「ひと口も食べてないのに?」
「ああ、そうだな、疲れすぎてて、食べたくないんだ」
「シチューになにかが、入っていたかどうかは、分からない」と、オブ
ライエンの声。個人日誌に。「あとで、調べてみようと思って、行った
ら、ケイコが、もう、捨ててしまっていた。でも、これだけは、言える。
目の前にいる、この女は、私のケイコでは、なかった」






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            3
 
 ワープで飛行する、シャトル。
「コンピュータ」と、オブライエン。パイロット席に、ついた。
「オブライエンの個人日誌を、ひらけ!最後の、言葉を、再生!」
「でも、これだけは、言える」と、再生音声。「目の前にいる、この女
は、私のケイコでは、なかった」
「その通りだ。ケイコじゃない━━━」
 オブライエンは、気をとりなおした。
「日誌を、再開!その夜は、よく、眠れなかった」
 
               ◇
 
 オブライエンの室。
 薄暗い居間で、オブライエンは、コンピュータに向かって、作業して
いた。
「私は、ケイコが寝るのを、待って、調査を開始した」と、オブライエ
ンの声。
「しかし、調べるといっても、なにを調べればいいのか?私は、必死に、
なにか、異常がないか、いろいろな仮説を立てて、さがした」

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「スキャン終了」と、コンピュータ。「未知の微生物は、探知されませ
んでした」
「生物体に対して、影響力を持つ、化学物質の痕跡こんせきは?」
「そのような、化学物質の痕跡こんせきは、まったく、探知されません」
「じゃあ、未知の化学物質は?」
「探知されません」
「内部EMセンサーグリッドに、アクセスせよ!」
「完了!」
「低周波通信の痕跡こんせきを、スキャンしてみてくれ!」
「スキャン終了!低周波通信の痕跡こんせきは、ありません」
「ニューロウェーブパターンに、異常は?」
「ありません」
「テレパス活動の痕跡こんせきは、ないか?」
「ありません」
 オブライエンは、ため息をついた。
「コンピュータ、宇宙暦47550から47571までに、ステーショ
ンに到着した船を、すべて、ディスプレイせよ!」
「ピピピ」と、コンピュータ。
「ガンマ宇宙域からは?」
「おたずねの期間には、ガンマ宇宙域からの船は、一隻も、来ていませ

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ん」
 オブライエンは、立ち上がり、レプリケータの前に行った。
「コーヒー!ジャマイカンブレンドの、濃くて、甘いやつを」
「ピューピピピ」と、デュブリケータ。入れたてのコーヒーカップが現
われた。
「少し、飲みすぎだぞ、オブライエン」シスコのものまねで。
「でも、仕方ありませんよ!」
 また、ソファーのコンピュータの前に座った。
「よし、コンピュータ!」
「ピュルピュル」と、コンピュータ。
「ステーション日誌を、日付順に、再生してくれ!宇宙暦47550以
降のものから、頼む!」
「どの仕官が記録したものか、特定してください」
「指令は、全員のだ」
「音声?それとも、文書で?」
「音声で!」
 ステーション日誌の再生が、始まった。
「ステーション日誌、宇宙暦47552・9」と、シスコの声。
「ガプタ将軍が、じきじきにカーデシアの動きを、視察に訪れた」
 オブライエンは、ソファーに座ったまま、聞いていた。

50

49





 
               ◇
 
 オブライエンの室。
 ステーション日誌の再生が、続いた。
「非武装地帯のいくつかで━━━」と、シスコの声。
「現在までに、存在が報告されていない生命体を発見」と、ダックス中
尉の声。「分類上は、原生動物門に属する━━━」
「行方不明になったのは」と、シスコの声。「ベイジョー7号星の3番
目の月付近で、捜索のため━━━」
「政府のお偉方なんて」と、キラ少佐の声。「結局、なんにも分かって、
いないのよ!到着する船を、すべて検査しろだなんて━━━」
「1700時の時点では」と、ドクターベシアの声。「なんの問題もな
く、正常に機能しているようだ。私の見るところでは━━━」
「カーデシアも、協定を破るつもりは、ないようだ」と、シスコの声。
 オブライエンは、ソファーに横になって、聞いていた。
「アクセスが拒否されました」と、コンピュータ。
 オブライエンは、起き上がった。
「拒否?」と、オブライエン。「どこへの、アクセスなんだ?」
「宇宙暦47569・4以降の日誌へのアクセスは、限定されています」

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「オレが戻った日だ━━━アクセスの限定範囲は?」
「レベル1の、セキュリティクリアランスの保有者にです」
「オレは、レベル1だぞ!」
「セキュリティコードナンバーの、入力を!」
 オブライエンは、ナンバーを入力した。
「アクセスが、拒否されました」と、コンピュータ。
 オブライエンは、拒否された画面を、じっと見つめた。
 
               ◇
 
 ブリッジ。
 オブライエンは、ブリッジまで来ると、はじごを降りて、メンテナン
スパネルをはずして、作業を始めた。
 通りかかった、デカーティスが、声をかけた。
「手伝いましょうか、チーフ?」と、デカーティス。
「いや、これで、上部目標塔は、午前中には、動くと思う」と、オブラ
イエン。
「そうですか、さすがですね!」
 デカーティスは、歩いていった。
「コンピュータのサブルーチンには、いくつも、ワナが仕掛けてあった」

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53





と、オブライエンの声。個人日誌に。
「もし、私がファイルに侵入したら、すぐ、分かるようにだ。だが、そ
んな、ワナを、かいくぐることくらい、私には、なんでもなかった」
 
               ◇
 
 オブライエンの室。
 オブライエンは、戻ってきて、居間のコンピュータの前に座った。
「隠された日誌を読んでも、疑問は解けなかった」と、オブライエンの
声。個人日誌に。
「おそれていたことが、起きてしまっていた。彼らは、パラダ人のセキ
ュリティに関する、私の報告書を読み、徹底した分析をおこない、その
上、私の個人日誌にまで、侵入していた。妻への、ラブレターを読んで、
楽しんだだろうか?パラダ星系からの極秘通信には、シスコは、なんど
かエントリーしていた。しかし、通信の内容を、示唆するデータは、な
かった。私がセキュリティを乗り越えて、侵入してくるのを、見越して
のことだ。あなどれない、敵だ」
 
               ◇
 

56

55





 ステーションの到着ロビー。
 ベイジョーからの船から、人々が降りてきた。
 オドーは、オブライエンを見つけた。
「チーフ!」と、オドー。
「問題が起きてね!」と、オブライエン。「話があるんだ」
「帰ってきた、途端とたんにか!」
 通路の脇で、オブライエンは、オドーに言った。
「ジェイクを除いて、ほかのみんなは、別人らしい。誰を信用していい
のか、途方にくれているんだ」
「彼らは、あなたを、マークしてます?」と、オドー。
「たぶんね。質問をしてまわったり、コンピュータをいじったりもした
からね。きっと、目をつけられて、いるだろう。艦隊に、連絡するんで
も、なんて、言うんだ?妻の様子がおかしい、とか、司令官が、自分に
相談しないで、仕事をするとか?」
「そうしたら、艦隊のほうから、司令官に問い合わせが入るでしょうね」
「そうなったら、まずいでしょ?」
「パラダ人が着くのは?」
「38時間後だ」
「ああ、この問題が解決するまでは、来られちゃ困りますね」
「同感だ」

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「じゃ、仕事に戻ってください。敵の注意を、引かないようにしないと。
私も調べてみます。もし、チーフの疑っているとおりだったら、宇宙艦
隊とベイジョー当局に、同時に通報しましょう」
「頼りは、きみだけだ」
「かならず、真相は、あばきます」
 
               ◇
 
 オブライエンの室。
 オブライエンは、戻ってきた。
「私は、やっと、ひと安心した」と、オブライエンの声。個人日誌に。
「ついに、味方ができたんだ。あとは、待つしかなかった。だが、私は、
この、待つというのが、できない主義なんだ。そこで、次に起こるであ
ろうことにそなえて、準備を始めた。打つ手は、まだ、いくつかあった」
 オブライエンは、いくつかのパーツを組み合わせて、閃光弾せんこうだんを作った。
 
               ◇
 
 ステーションのプロムナード。
 オブライエンは、クワークの店の2階のテーブル席にいた。

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 下のフロアでは、ダーボが出て、大騒ぎだった。
「まぁ、あんたに勝ち目は、ないね!」と、クワーク。うしろから、近
づいてきた。
「勝ち目?」と、オブライエン。「いったい、なんのことだ?」
「言わなくても、分かるでしょ?顔色が悪いね、ちゃんと、寝てます?」
 オブライエンは、座ったまま、クワークのえりをつかんだ。
「いったい、なにが言いたいんだ、クワーク?」
「ラケットボールですよ!来週、どっかと、再試合でしょ?まだ、勝負
は、ついてないんすよ!」
 オブライエンは、クワークのえりを離した。
「まったく、短気で、困るよな」
 クワークは、オブライエンの向かいに座った。
「話題を変えよう」と、オブライエン。
「いいすよ」と、クワーク。「話題を変えましょう。そうだな、パラダ
人は、どうなってます?たしか、あした、来るんですよね?」
「パラダ人のなにが、知りたい?」
「新しいお客をつかもうと思ったら、前もって、情報を集めておかない
とね」
「ああ、金儲けの秘訣ひけつ、第何条だ?」
「へへへ、かなり、あとの方だね、194条かな?」

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「パラダ人のことが、知りたいなら、よそで聞け!」
 オブライエンは、立ち上がった。
「オドーより、オブライエン!」と、胸の通信バッジ。
「どうした?」と、オブライエン。通信バッジに。
「至急、私のオフィスへ!」
「よし、すぐ行く!」オブライエンは、店を出た。
「へ」と、クワーク。やれやれという表情。
 
               ◇
 
 ステーションのプロムナード。
 オドーのオフィスのドアがあいて、オブライエンが入ってきた。
「チーフの言う通りです」と、オドー。保安パネルの前に座っていた。
「なにか、分かったか?」と、オブライエン。
「座って!」
 オブライエンは、オドーの向かいに座った。
「パラダ人の過激派のこと、知ってます?」と、オドー。
「政治情勢については、詳しくないけど、12年間、政府軍と対立して
るって、聞いたよ。それが?」
「今回の事件の背後にいるのは、誰だと思います?」

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「オドー、司令官の日誌には、パラダ星系から、極秘通信が入った記録
があった。あれは、過激派からの通信か?」
「じつのところ、そうなんです」
「じゃあ、パラダ政府とかわした、セキュリティ協定に、違反してるじ
ゃないか?それなら、和平交渉は、中止にするべきだ」
「それは、大人気ないと、思いますがね」
「なにが、大人気ないんだ?安全が保証できない以上━━━」
 オブライエンは、なにかに気づいて、オドーを見た。
「きみも、一味か?」と、オブライエン。
「なにを言うんです。私は、ただ━━━」
「いや、きみも、やつらの一味なんだ!」
 オブライエンが、ドアに向かおうとすると、シスコとキラ少佐が、フ
ェーザーを構えて、入ってきた。ドクターベシアも、いっしょだった。
「話し合う必要は、ないぞ!」と、シスコ。
「なにものなんだ?」
「危害を加えるつもりは、ないわ!」と、キラ少佐。
「すこし、落ち着いてください」と、ドクターベシア。鎮静剤を打とう
とした。
 オブライエンは、閃光弾せんこうだんを、床にぶつけて、破裂させた。
 オブライエンは、フェーザーで、ふたりの護衛を撃ち、逃げた。

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            4
 
 ステーションの通路。
 フェーザーを構えた、オブライエンは、走ってきて、立ち止まった。
「コンピュータ!」と、オブライエン。胸の通信バッジに。
「ピュルピュル」と、コンピュータ。
「バッジにロックオン!私を、リオグランドに、緊急ビーム転送してく
れ!」
「今の命令は、実行できません。ステーション司令官に、援助を要請し
てください!」
 オブライエンは、胸の通信バッジを、通路脇に捨てた。
 
               ◇
 
 ステーションの通路。
 フェーザーを構えた、オブライエンは、走ってきて、立ち止まった。
 行く手を、フォースフィールドにはばまれた。
 オブライエンは、壁面にある、保安パネルをひらいて、通路マップを
出した。
「取り囲むつもりだな?」と、オブライエン。「フォースフィールドで

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来るなら、フォースフィールドで返してやる!」
 オブライエンは、パネルを操作した。
「おのれ!オレをつかまえたいなら、全部、解除しないと無理だぞ!」
 通路のフォースフィールドが、つぎつぎに、設定されていった。
 そして、オブライエンだけは、通行可になった。
「ありがとさん!」
 オブライエンは、通路を進んだ。
 
               ◇
 
 ステーションの通路。
 フェーザーを構えた、オブライエンは、走ってきて、立ち止まった。
 ジェイクが、通路に出てきた。
「ジェイク!」と、オブライエン。「大丈夫か?」
「ええ」と、ジェイク。
「よかった!聞いてくれ!どうも、みんなの様子がおかしい。きみのお
父さんもだ。なにかが、起こったらしい。無事なのは、きみとぼくだけ
だ」
 ジェイクは、保安パネルのボタンを押して、通報した。
「ジェイクより、セキュリティ!チーフを発見!レベルH2、セクショ

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ン5」そして、オブライエンに。「大丈夫ですよ、降伏すれば、助けて
くれます!」
 ジェイクは、別の通路へ、姿を消した。
 オブライエンは、壁面パネルをはずして、メンテナンス通路へ入り、
パネルを閉じた。キラ少佐が、通り過ぎた。
「捜せ!」と、シスコの声。
「なかいったいを、徹底的にさがせ!」と、オドーの声。「住民には、
外に出てこないよう、言っておくように!」
「了解!」と、保安員。
 オブライエンは、メンテナンス通路のはしごを、のぼっていった。
 手にしていた、フェーザーを落とした。
 最上階の倉庫に辿たどりついた。
 転送パネルを操作して、シャトルに自分を転送した。
 
               ◇
 
 シャトルのパイロット席。
 オブライエンは、転送されてくると、パネルを操作して、出発準備を
始めた。
「エンジンを停止せよ!」と、シスコ。スクリーンに、シスコ司令官。

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「申し訳ございませんが、命令には、従えません」と、オブライエン。
「ステーションを出るのは、許さない!」と、シスコ。「繰り返す!た
だちに、エンジンを停止せよ!」
「もう、係留クけいりゅうランプは、解除してありまし、トラクタービームは、作
動しないはずです。私を引き止めることは、できませんよ!通信終了!」
 オブライエンは、スクリーンを消した。
「シールドを!」
 シャトルは、DS9から飛び立った。
 ステーションからのフェーザー砲が、シャトルに命中した。
「シールドは、大丈夫か?」
「シールド、71パーセント」と、コンピュータ。
 再度の、フェーザー砲で、シャトルが揺れた。
「警告!49パーセントに低下!」
「生命維持装置のパワーを、シールドジェネレータに転送!」
「転送完了!」
「シールドの状態は?」
「シールド、93パーセント」と、コンピュータ。
「エンジン全開!コース41、マーク330」
「了解」
「コンピュータ、艦隊基地410に、亜空間チャンネルをひらけ!最優

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先で、ロールマン提督に!」
「どうぞ、お話しください!」と、コンピュータ。スクリーンに、ロー
ルマン提督。
「提督、マイルズオブライエンです。DS9のテクニカルチーフです」
「ええ、知っております」と、ロールマン提督。
「提督、現在、DS9では、緊急事態が起こっております。一種の乗っ
取り、クーデターがあったらしいのですが、パラダの和平交渉に関連し
ているようです」
「いいですか、オブライエンチーフ、DS9に戻りなさい!ただちに、
です」
「分かってらっしゃらないんですね?シスコ司令官をはじめとして、司
令部スタッフは、全員が、なんらかの影響力に操られ━━━」
「ただちに、船を戻し、帰還しなさい!身の安全は、保証します!」
 オブライエンは、亜空間通信を切った。
「自分の耳が信じられなかった」と、オブライエンの声。個人日誌に。
「まさか、宇宙艦隊すべてが、乗っ取られてしまったというのだろうか
?」
 オブライエンは、パネルを操作した。
「コンピュータ、コース設定!180、マーク31だ!ワームホールへ
!」

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 シャトルは、近づくと、ワームホールがひらき、シャトルは、そのま
ま吸い込まれるように、ワームホールの中へ入って行った。
 
               ◇
 
 ガンマ宇宙域のワームホールの出口。
 ワームホールがひらき、シャトルが出てくると、再び、ワームホール
が閉じた。


            エピローグ
             
 ワープで航行する、シャトル。
「コーヒー!」と、オブライエン。デュブリケータに。「ジャマイカン
ブレンドの、濃くて、甘いやつを」
「ピューピピピ」と、デュブリケータ。入れたてのコーヒーカップが現
われた。
「パラダ星系まで、あと、どのくらいか?」コンピュータに。
「あと、1分20秒です」
追手おってとの差は、どのくらいだ?」

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 オブライエンは、カップを手に、パロット席に戻った。
「現在の速度ですと、7分4秒です」
「じゃ、ワープから出たら、すぐ、追いつかれるのか?となると、どこ
で追いつかれるかが、問題っていうわけだ。コンピュータ!パラダ星系
で、最大の惑星は、なんだ?」
「パラダ4です」
「コースを、パラダ4に向けて修正せよ!」
「了解!」
「パラダ4に、月は、いくつある?」
「7つです」
「ラッキー7か!座標を出してくれ!」
「パラダ星系に、到着します!」
「通常エンジンへ!」
 シャトルは、月のひとつへ、向かった。
「追手のメコンは?」
「メコンは、ワープアウト後、こちらと同じに、コースを修正しました」
「狙い通りだ━━━メコンとの差は、どのくらいだ?」
「現在の速度ですと、メコンとこちらとの差は、2分1秒あります」
「速度を落とし、30秒後に追いつかれるように、修正してみてくれ!」
「エンジンを、0・4ポイント、しぼります」

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「さぁ、鬼さん、こちらへ!」
「警告!極地の磁場に、入りました!これから、27秒間、センサーは、
作動しません。手動操縦に切り替えてください!」
「切り替えた!コンピュータ、エンジン全開!発進!」
「了解!操縦は、手動で、お願いします」
 シャトルは、月のひとつの軌道に入った。
「全エンジンを停止せよ!パワーシステムも停止!静止状態に入れ!」
「了解!」
「さぁ、どこにいるか、分かるか?完全に、見失ったようだな!さて、
どうするかな?オレは、かくれんぼの天才だぞ!遊んでるヒマは、ない
ってか?コンピュータ、メコンは、どこに向かっている?」
「41、マーク401です」
「どこだ、それは?」
「パラダ2です」
「パラダ2?なにが、ある?」
「地域を、特定してください!」
「コンピュータ、メコンに出入りする、転送を、すべてモニターしてく
れ!」
「メコンの転送装置が、作動しました」
「地表へ転送?」

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「そうです」
「何人、転送した?」
「3人です」
「メコンに残ったのは?」
「いません」
「パラダ2へ、コースを変更!地表の3人がいる、位置の真上に、軌道
を設定してくれ!」
「ピピピ」と、コンピュータ。
「どうした?」
「メコンの3人が転送した場所に、マイルズオブライエンがいます」
「なんだって━━━そうか、そのニセモノが、みんなをたぶらかせてい
たわけだ!よし、コンピュータ!」
「ピュルピュル」と、コンピュータ。
「そのニセモノを、近くの別の場所に転送、同時に、オレを、ニセモノ
の場所に転送してくれ!」
 オブライエンは、さらに、付け加えた。
「コンピュータ、ついでに、1分前までの記憶の、転送も頼む!」
「警告!記憶の転送には、本人どうしの承認が必要です」
「ハハ、転送元も転送先も、マイルズオブライエンで、オレが本人さ!
記憶の転送を、承認する!」

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「ピピ!本人であることを確認!1分前までの記憶も、同時に転送しま
す」
 
               ◇
 
 パラダ2の地下通路。
 オブライエンが、転送されてきた。
 オブライエンは、フェーザーを構えながら、センサーで調べた。
 ドアの前に来ると、あけた。
 そこには、シスコにキラ少佐、それにパラダ人が2人いた。
「まさか、裏で、過激派とつるんでいたとはね!」と、オブライエン。
フェーザーを構えた。
「それは、誤解だ!」と、シスコ。「武器を、しまうんだ!説明する」
「いやだ!それなら、そっちから、武器を捨てるんだ!早く!」
 シスコとキラ少佐は、武器を床に捨てた。
「おまえもだ!」
 パラダ人のひとりは、武器を捨てた。
「あのドアをあければ、すべて、分かってもらえます」と、もうひとり
のパラダ人。
「お仲間が、隠れているんじゃないのか?」と、オブライエン。

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「いいえ、なら、私があけます」
「そこを、動くんじゃない!」
「こっちの言うことも聞いて!」と、キラ少佐。「わたしたちは、あな
たの、敵じゃないのよ!」
「そうか?」と、オブライエン。
「お願いです。すべて、誤解も解けます」と、もうひとりのパラダ人。
「動くなって、言ってるだろ!」
 最初のパラダ人が、隠し持っていた銃で、オブライエンを撃った。
 オブライエンは、イスの上に、座るように倒れた。
 隣のドアがあくと、ドクターベシアが、転送で入れ替わった、本物の
オブライエンを診察していた。
「ドクター、来てくれ!」と、シスコ。
 ドクターベシアは、撃たれた、オブライエンをセンサーで調べた。
 本物のオブライエンは、起き上がって、ニセモノを見にきた。
「完璧じゃないか!」と、オブライエン。「ぼくに、そっくりだ!」
「自分が本物の気よ!」と、キラ少佐。
「心まで、本物と同じにしてあるんです」と、もうひとりのパラダ人。
「この複製の体には、和平交渉が始まれば、行動を起こさせる装置が、
しかけてあるんです。政府側の科学者がしたことです。複製の技術にか
けては、すごいですからね」

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「なにを、やらせようとしたんだ?」と、オブライエン。
「確証はありませんが、おそらく、誰かの暗殺でしょう。われわれの代
表全員に━━━」
「政府内の内通者が、知らせてくれたのさ」と、シスコ。「出張中、き
みが、誘拐されて、複製にすりかえられたと」
「それ以来、ずっと、さがしていたんです」と、もうひとりのパラダ人。
「だが、どっちが本物か、分からない」と、ドクターベシア。「検査を
しても、数値は、まったく同じだし、ステーションの地理もよく、知っ
てるし」
「それで、あんなにしつこく、検査をしたんですか」と、オブライエン。
「やっと、分かりましたよ」
「あなたが、発見されるまで」と、キラ少佐。「彼が、セキュリティシ
ステムに、入らないようにしたの。なんで、こんな目に合うんだろうっ
て、思ったでしょうね」
「チーフが発見されたって、知らせが入った時には」と、ドクターベシ
ア。「彼は、逃げ出していた」
「なぜ、パラダに戻って、来たんでしょう?」と、もうひとりのパラダ
人。
「ぼくだったら」と、オブライエン。「ステーションに非常事態が起き
たとき、誰かに伝えようとするね」

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「複製も、そうしようとしたんだ」と、シスコ。「危機を伝えにきたの
さ」
「ケイコ!」と、撃たれた、オブライエン。腕をのばして、オブライエ
ンの肩をつかんだ。
「ケイコがどうした?」と、オブライエン。
「彼女に、愛してると━━━」
 撃たれた、オブライエンは、死んだ。
 オブライエンは、悲しそうな目で、シスコとキラ少佐を見上げた。
 
               ◇
 
 オブライエンの室。
 キッチンテーブルで、モリーとケイコが朝食をとっていた。
 ドアがあいて、オブライエンが入ってきた。
今朝け さも、ずいぶん、早起きなんだな」と、オブライエン。「やぁ、モ
リー!フレデリックソンさんちは、どうだった?」
「楽しかった━━━」と、モリー。
 そして、デュブリケータに。
「ジャマイカンブレンドの、濃くて、甘いやつを」
 カップを手に、ソファーに座った。

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「モリーは、バルカンのプログラムを、気に入ったかい?」
「そうね」と、ケイコ。「モリーには、少し早すぎるみたいだったから、
モリーの好きな、積み木ブロックにしたの」
 ケイコは、オブライエンを、じっと見つめた。
「マイルズ、なぜ、バルカンのプログラムのこと、知ってるの?あなた
には、まだ、話してなかったはずよ━━━」
 
               ◇
 
 エンディングコール。
 ワープ航行する、星空の映像。
 雄大な、ディープスペースステーションの音楽。
 
 
 
                  (第二_四_二話 終わり)





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