眠れるステーション エムポックノール
            ハンスべイムラー、ブライアンヒュラー
             
            プロローグ
             
 キラ少佐、ジャッシアダックスとウォーフ少佐は、連れ立ってクワー
クの店へ入った。
「どうも、いらっしゃいませ!ようこそ!」と、クワーク。
「今日は、なんだか、静かねぇ」と、ダックス。
「いやぁ、ちょうど、谷間でね、先にご注文を伺いましょうか?混み合
ってくる前に」
「わたしは、ティラミンビール」と、ダックス。




2

1





「それじゃ、わたしは」と、キラ少佐が言いかけると、店の隣から騒音
が響いた。
「今のはなんだ?」と、ウォーフ少佐。
「何ってなんです?ああ、あれね。あれは、おいっ子とチーフオブライエ
ンがコンジットを修理してるんです。すぐ慣れますって」
「クリンゴンレストランにしよう!」と、ウォーフ少佐。
「そっちのほうが、静かね」と、ダックスも同意して、三人は店を出て
いった。
 クワークは、士官候補生の制服を着て通りかかったおいっ子のノーグを
呼び止めた。
「おい、あの騒音はいつになったら止むんだ?」
「コンジットの修理が済んで、安全が確認されたらだよ」と、ノーグ。
「急いでやれ!でないと、客が逃げちまう」
「なら、差し入れしてよ」
「何をだ?」
「ルートビア、ふたつ」
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、コンジットで修理を続けていた。

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3





「ハイパースパナ」と、オブライエン。ノーグは、器具を道具箱から手
渡した。
「ジー、ジー、ジー」と、修理の音。
「光カプラー」
「ビー、ビー、ビー、ビー、ビー、ビー」
「どうして次は、フェーズデコンパイラだってわかったんだ?」と、オ
ブライエン。
「作業を見ていまして」と、ノーグ。
「そうか、なかなかやるな」
「父は、チーフをすごく誉めていました。なんでも直せる人だって」
「ふん、エンジニアは、それが仕事だ。ようし、これでいいぞ」
「すばらしい!」と、ノーグがいい終わらぬうちに蒸気が噴出してふた
りを包んだ。
「わわ、おお」
 
               ◇
 
 チーフオブライエンは、オフィスへ向かうシスコ大佐に報告した。
「応急処置はしましたが、故障範囲が広いんです。プラズマ分配マニフ
ォールドを交換しなくては」

6

5





「複製できないのか?」と、シスコ大佐。
「ええ、カーデシアのマニフォールドは、ベータマトリックスを使って
いるので、複製できないんです」
「それじゃ、ガルデュカットに連絡して、マニフォールドシステムのス
ペアがないかどうかいてみるのはどうです?」と、オドー。
「大喜びで助けてくれるだろうな、他に方法はないか?」と、シスコ大
佐。
「今は使われていないカーデシアのステーションから失敬してくるとい
う手があります」と、オブライエン。
「エムポックノールか?」
「ディーエスナインと同じ構造で、一年前に閉鎖されました。しかしプ
ラズママニフォールドシステムはまだ使えるかもしれません」
「付近でのドミニオンの活動はどうだ?」
「ここ数か月はありません。戦略的には価値のない星域ですから」
「しかし、ひとつ問題があります」と、オドー。
「カーデシア人が基地から撤退するときは、侵入者撃退対策として、わ
なを仕掛けていくのが普通なんです。そのわなを解除するには、カーデ
シア人でないと」
「では、カーデシア人を連れていけばいいわけだ」と、シスコ大佐。
 

8

7





               ◇
 
 チーフオブライエンは、エアロックでガラックにいた。
「司令官はなんて言って、きみを説得したんだ?」
「志願したとは思わない?」と、ガラック。
「へへ、脅されたんだろ」と、オブライエン。
「違いますよ、ワイロをつかまされたんです。私の店のスペースを増や
してくれるそうなんです。最近の仕立ての機械は、かさばるのでね」
「とにかく、来てくれて嬉しいよ。どうしたんだ?」
「いやはや、まったく、最近、みなさん、私を信用してるみたいなんで
す。なんと言いますか、居心地が悪くってね。この調子だと、そのうち
食事に招かれだすかもしれません」
「そうか、そんなにいやなら、僕は君を招待するのは、やめておくよ」
「ありがとうございます」
「お礼なんかいいって、君には借りができたしな、カーデシア人が仕掛
けたわなを、解除するのは、僕向きじゃないよ」と、オブライエン。
「それが当然ですよ。ご心配なく、私の得意分野ですから」と、ガラッ
ク。
 ボリアン人のボクタは、シャトルに乗り込んできたクルーたちに言っ
た。

10

9





「わなの解除だと?それを知ってたら、この任務には志願しなかったの
に」
「だけど、ゴミ処理よりは、おもしろそうだろ?それに、エンジニアが
フェーザーを撃てるなんて、めったにないぞ」と、ペチェッティ。
「ペチェッティ、お気の毒だけど、あなたが撃つことになるのは、ねず
みだけよ。エムポックノールは無人だったから、きっと腹ぺコだわ」と、
女性士官のストルゾフ。
「心配するな、おまえらのことは、おれが守ってやる」と、アマロ。
 ノーグは、四人のうしろからやってきた。
「なんの用だ、候補生」と、アマロ。
「同行させていただきます、閣下」と、ノーグ。
「ああ、待っていたぞ」と、オブライエン
「光栄です。閣下と任務をごいっしょできて感激です」
「期待してるぞ、だが、その閣下は、やめてもらいたいな」
「はい、かっか、いや、チーフ!」
「よおし、出発だ、エムポックノールへ向かうぞ」





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            1
 
 ガラックとノーグは、シャトルのブリッジで、カーデシアのコトラを
やっていた。
「何をしている?」と、ガラック。
「再編成です」と、ノーグ。
「負けているのにか?」
「だからですよ、資産を守らないと」
「これは、経済取引じゃないんだぞ。そもそも資産を守ろうとするから、
こんなはめになったんだ、積極的に行かなきゃだめだ、攻撃にでないと
!」
「そっちの番です」
いらついてきた。フェレンギ人にカーデシアのゲームをさせるのは、ク
リンゴン人に口を閉じて、ものを噛めと言うようなものだ」
「コトラは、軍を再編成したり、資産を守ったりじゃなく、大胆な戦略
をもって行動にでるゲームなのに!チーフ、ノーグと代わってください
よ!セトリックスリーの英雄と、是非、コトラで対戦してみたいんです」
「それは、どういう意味だ?」と、チーフオブライエン。
「チーフのお手柄は、みんな、知っていますよ。たった二十四人の部下
ひきいて、カーデシアの二個大隊を相手に、大勝利を収めたんですから

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ねぇ。その半分の真剣さで、コトラをやれば、いい勝負になりますよ」
「今はもう、軍人じゃない、エンジニアだよ」
「そうかな、じゃ、ドクターベシアとホロスイートで何時間も過ごすの
は、修理しているからですか?」
「ガラック、なにが言いたい?」
いただけですよ。ドクターと昔の戦闘機のパイロットの格好をして
楽しんでいるでしょう?過去の戦争でね」
「それは、ただの、遊びさ、ゲームだよ」
「コトラもそうですよ。是非、あなたのような勇者と対戦してみたいも
んです」
「ああ、また、今度な」
 ペチェッティは、ブリッジに入ると、チーフオブライエンに電子パネ
ルを見せて、報告した
「チーフ、欲しいもののリストです。分類は、三つ。必須機材は、マニ
ホールドとプラズマリコイラ、準必須機材は、EPSマトリックスコン
バータなどで、他に欲しいものは、バイバス転換機などなどです」
「カーデシアの勲章やバッジっていうのは何だ?」
「いやぁ、それは、趣味でして、もし、いいのがあったら」
「任務は、お遊びじゃないんだぞ、ペチェッティ、おまえのコレクショ
ンを増やすために行くわけじゃないんだ」

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「了解」
「ふふふん」
 
               ◇
 
 シャトルは、ワープ航行を続けた。
「もうすぐ、エムポックノールです」と、操縦席のノーグ。
「ワープ航行停止」と、チーフオブライエンは言った。
「フルスキャンしろ!操縦を代わろう」
「メインパワーも、生命維持装置も、全く、作動していません。生命反
応なし」と、ノーグ。
「転送可能域へ入ろう」と、チーフオブライエン。
「いや、転送は危険だと思いますよ」と、ガラックは言った。
「カーデシア以外のシグナルを探知すると、転送パターンにスクランブ
ルがかかるように、なっているはずです」
「では、避けよう。ドッキングでゆく。パッドは閉鎖されてる。目標塔
から行こう」
「だけど、エアロックにわなは?」と、ノーグ。
「当然、仕掛けてある。ドッキングする前に、誰かが、解除しないとね」
と、ガラック。

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「僕が志願します!」
「やめなさい!熱心さは認めるが、DNAまでは誤魔化せないぞ。無事、
エアロックを抜けられるのは、カーデシア人の私だけでしょう」
 
               ◇
 
 ガラックは、宇宙服を着てエムポックノールに入り、メインパワーを
作動させた。ステーションの照明の一部が点灯し、医療室に置かれた冷
凍睡眠ケースにいたカーデシア人が目を覚ました。
 乗員たちは、エアロックから出てきた。
「いやぁ、エムポックノールにようこそ!」と、ガラック。
「ご招待、ありがとう」と、チーフオブライエン。
「いやぁ、ご遠慮なく。なんでも持っていってください」
「みんな、いいか!これから、三つの斑にわかれる。ノーグとストルゾ
フは、僕と、必須機材を探す。ペチェッティとアマロは、準必須機材を。
ボクタとガラックは、それ以外のもの。警備システムは、ガラックが解
除してくれたが、油断はするなよ。かならず、スキャンしながら進むよ
うにしよう。もし、不審なものがあったら、触らないで、助けを呼べ。
ようし、出発」
 三班は、それぞれわかれて、薄暗いステーションを懐中電灯をかざし

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ながら進んだ。
 ボクタに続いて螺旋階段を上がろうとしてガラックは、手すりにあっ
たねばねばした液体に触れた。
「なんだ、これは?」と、ガラック。
「生命維持化合物だ」と、ボクタ。
「なんでそんなものが、ここに?」
 階段の脇の室は、照明がついていた
「行ってみよう」と、ガラック。
 そこは、医療室で、ベッドが三つあった。
「保存チューブのようだな」
 一つのベッドの上に柱が倒れていて、ガラックはそれをどかして、カ
バーをあけると、ミイラ化した死体が横たわっていた。ボクタは、トリ
コーダで調べた。
「カーデシア人だ。死後およそ一年。おい、これを見ろ!」
「おもしろい」
「連隊のバッジだ」
「第一階級、第一歩兵大隊のものだ」
「きっと、ペチェッティが喜ぶぞ!」
「そっちの保存室は、最近、開いたようだな」と、ガラック。
 チーフオブラインは、ノーグを助手に、コンジットを修理していた。

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「コイルスパナ!」ノーグは、言われたものを渡した。
「フラックスカプラ!」
「あ」と、ノーグ。
「フラックスカプラ!」
「シャトルに忘れました、すぐ取ってきます、閣下、いえ、チーフ」
「ガラックよりオブライエン」と、通信バッジの声。
「どうした?」
「医療室まで来てください。見せたいものがあるんです」
「すぐ行く」
 ノーグは、エアロックまで戻ったが、シャトルは切り離され、宇宙空
間を漂っていた。
「なんで、シャトルが」と、ノーグが呟くまもなく、シャトルが爆発し
た。
「ああ、ああ」







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            2
 
 医療室に、全員が集まっていた。
「シャトルが勝手にテーションを離れて、自爆するはずないだろう」と、
チーフオブライン。
「この保存室から出た、ふたりの仕業と考えるのが、妥当でしょうね」
と、ガラック。
「第一歩兵大隊の兵士がふたり、そこいらを歩き廻っているんだとした
ら、やばいですよ。皆殺しが、モットーですから」と、ペチェッティ。
「単純なモットーだが、信じて戦う兵士は、強いですよ」と、ガラック。
「なぜ、カーデシア人は、撤退する時に、ふたりの兵士を保存室に残し
たんでしょうか?」と、ノーグ。
「もちろん、基地を、守るためよ。進入者があれば目覚めるよう、プロ
グラムされていたんだわ」と、ストルゾフ。
「そうかもしれない。ふたりが、どこかに、いるのは確かだ。シャトル
を爆破したことから言って、友好的では、なさそうだ」と、チーフオブ
ライン。
「こっちが自己紹介しないから、おこっているのかもしれないわ」
「それも、そうだ。呼びかけよう」と、アマロは言って、通信機を操作
しようとした。

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「通信できません」
「僕のもだ、妨害フィールドを張ったらしい」と、チーフオブライン。
「脱出しなければ!助けを呼びましょう!」と、ボクタ。
「どうやって?亜空間トランシーバは、カーデシアが撤退する前に壊し
ていった」と、ペチェッティ。
「のろしを上げるって手もありますけどね」と、アマロ。
「それは、いけるかもしれないぞ。ディフレクタグリッドは、ほとんど
無傷だ。なんとかして、フィールドコイルを調整して、共変パルスを打
ち出すことができれば」と、チーフオブライン。
「ステーションを、昔の電信機のように使って、SOSを送れる」と、
ペチェッティ。
「ディーエスナインまで送れる強いパルスを出すには、強力なパワーが
必要となる。ペチェッティ、おまえは居住区へ降りて、ミクロフュージ
ョン反応を復活させろ。ストルゾフ、いっしょにゆけ!ボクタ、コンジ
ットフローのマグネティックフィールドを、再調整してくれ。アマロが
護衛につく。ノーグとガラックは、僕といっしょだ。貨物室のシグナル
発生装置を、セットアップする」
「はい、チーフ!」
「通信機は、なるべく、使わないように。敵に居場所が知れるぞ。質問
は?よぉし、いこう!」

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               ◇
 
「私は、さっきの、ストルゾフの意見には、同意できないな」と、ガラ
ックは言った。
「いったい誰が、味方が撤退したあとのステーションに残ることを志願
しますか?保存室で何年も目覚めないかもしれないのに!いくら、勇猛
果敢でも考えにくい。他に理由があるはずです」
「かもしれない。だが、謎が解けるまで、長居ながいする気はないよ」と、チ
ーフオブライン。
「まったく、地球人ってのは、ミステリーの楽しみ方を知らないな」
「僕も、ミステリー小説は好きだな。寝る前に読む分にはいいが、自分
が殺されるのはね」
「誤解しないでください。私だって、早く、このステーションから逃げ
出したいんですよ。でも、この謎が解けないうちは、すっきりしないで
すからね」
 ノーグは、ふたりから離れて、周りを調べにゆくと、カーデシア兵士
が背後から忍び寄った。
「とにかく、今は、シグナル発生装置のセットアップが先決だ。ミステ
リーの謎解きなら、あとで、たっぷり、時間があるさ。ノーグ、ちょっ

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と、こっちへ来て、手伝ってくれないか」
「すぐに、行きます」と、ノーグが言うと、カーデシア兵士は、身を隠
した。
 ペチェッティは、居住区で修理していた。ストルゾフが、護衛につい
ていた。
「銃口を向けるのは、やめろよ!」と、ペチェッティ。
「大丈夫よ。ロックしてあるから」と、ストルゾフ。
 ニ階のハッチが閉まった。
「あなたがやったの?」ペチェッティは、首を振った。
 ターボリフトが降りてきた。
「扉があいたら、行くわよ」と、ストルゾフは小声で言った。
 ターボリフトのハッチが開いた。
「合図するから!いち、に、さん!」
 ターボリフトには、誰も乗っていなかった。
「僕が、気が付かないで、ターボリフトを動かしたのかな?」
「上を見てくる」
「わかった」
 ペチェッティは、螺旋階段を上がっていった。ペチェッティは、カー
デシアの紋章のディスプレイにみとれた。
「わぁ、すげぇ!」

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 ペチェッティは、背後から何者かに襲われた。
「助けてくれ!」
 ストルゾフは銃口を向けたが、ペチェッティを確認できなかった
「ペチェッティ!ストルゾフより、チーフ!たった今、うぁ」
 ストルゾフも、別のカーデシア兵士に襲われて、二階から突き落とさ
れた。
「うわぁああ」
「ストルゾフ!ストルゾフ!」と、チーフオブラインは通信バッジに呼
びかけたが、応答はなかった。
 三人が居住区に着いた時には、ストルゾフは息絶えていた。オブライ
エンは、壊された壁に近づくと、そこに、ペチェッティが倒れていた。










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            3
 
 ふたりの遺体は、白いシーツで覆われた。
「きっと、いきなり襲われたんだ」と、ボクタ。
「敵は、内部センサーで居場所をつかんだんだ」
「落ち着け!かならず、脱出できるから」と、チーフオブライン。
「余計なことを考えるな!ペチェッティは、死ぬ前に、ミクロフュージ
ョン反応を、ほぼ、復活させてくれた。残りは、僕がやる。それから、
貨物室に戻る。コンジットは、どうした?」
「終わってます」
「よおし、じゃ、アマロと補助コントロールに行って、パルス発生装置
の調整をしてくれ!」
「わかれるんですか?」
「仕方がない。SOSを打たなければ、ここからは、脱出できないんだ」
「でも、チーフ、もし我々が」
「ボクタ、頼む、がんばってくれ!」
「おれがついているから、平気だよ」と、アマロ。
「ペチェッティにも、ストルゾフがついていた!でも、どうなった?」
「じゃあ、ガラックをいっしょに行かせよう、なら、安心か?」と、チ
ーフオブライン。

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「申し訳ないが、私には、他に、やることがあります」と、ガラック。
「何をする気だ?」
「私は、殺されるのを、ただ、黙って待っている気はありません」
「それは、どういう意味だ?」
「もちろん、ふたりの敵を探しにゆくという意味ですよ。そして、始末
します。それに、泣き言を聞いていたら、ひどい頭痛がしてきましてね」
「チーフに逆らうと、頭痛だけでは済まないぞ」と、アマロは言って、
ガラックに銃のねらいを定めた。
「アマロ」と、チーフオブライン。
「撃ちたくて、たまらないんだろうね。カーデシア人を殺せるのなら、
誰でもいいんだ」
「アマロ、よせ!」と、チーフオブライン。
「ガラックが敵を始末してくれるのなら、それに越したことはない」
「さすが、チーフですね。どうです。いっしょに来ませんか?昔のよう
に、カーデシア人を殺しにゆきましょう。復讐したくありませんか?」
「いいや、ただ、ここを、脱出したいだけだ」
「あなたは、本能を抑え込んでいるんですね。でも、心のどこかに、セ
トリックスリーの英雄が眠っているはずだ」
「時間がないぞ。行け!」
「ノーグ、ボクタとアマロと行くんだ」

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「了解」
「いえ、平気です。ノーグはチーフと。ガラックが敵を捕まえに行って
くれましたから、安心しました」と、ボクタは言って、アマロと出かけ
ていった。
 
               ◇
 
 ガラックは、医療室のコンソールパネルの前にいた。
「アクセス、却下。アクセス、却下。おい、なにか、他に言うことはな
いのか?ないらしいな。アクセス、却下。アクセス、却下。アクセス、
却下。ばかのひとつ覚えだ」
 ガラックは、背後に気配を感じて、身を隠した。医療室に、カーデシ
ア兵士が銃を構えて、入ってきた。
「私に用か?」と、ガラックは保存室から身を起こして、カーデシア兵
士を撃った。
「いい気分だ。最高だ」
 ノーグは、貨物室を歩きながら、修理中のチーフオブライエンに話し
かけた。
「チーフ、なぜ、ガラックは、セトリックスリーにこだわるんです?」
「僕を、怒らせたいんだろ?」

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「でも、手柄を立てたんでしょ?」
「だからって、いい思い出とは限らないぞ。軍人だったとはいえ、人を
殺したからな」
「なに、言ってるんです?そんな、ご謙遜を」と、ガラックの声がして、
倉庫に入ってきた。
「どうやって、入ってきたんだ。ドアはロックしたのに!」と、ノーグ。
「開ける方法は、いくらでも、あるさ、素人でもないし。これを見てく
ださい。ちょっと、持ってて。ペチェッティが生きていれば、さぞかし、
喜んだでしょう」
「どこで手に入れた」と、チーフオブライエン。
「もちろん、兵士からですよ」
「じゃ、敵を殺したんだね?」と、ノーグ。
「ああ、ひとりね。もうひとりだ。ところで、死んだ兵士の体からサン
プルを取って調べたところ、あまり、嬉しくない結果が出ました。どう
やら、彼は、大量の精神異常作用発動薬を飲まされていたようです」
「なんで?」
「わかりません。ただ、この薬は、人を好戦的にします。薬のたんぱく
質構造は、カーデシア人のよそもの嫌いの性向を増幅させるんです。私
の推測では、かれらは、カーデシア軍部の実験に使われたのだと思いま
す。高等司令部は、兵士たちのモチベーションを高める方法を模索して

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いたのでしょう」
「そこで、カーデシア人でないものを憎むよう薬を投与したのか?」
「じゃ、なぜ、あなたを、襲ったのです?」と、ノーグ。
「それは、いい質問だな」
「実験が失敗したのかもしれない。手が付けられなくなって、保存室に
いれたとか」
「ずっと、こうして、仮説を立てるのもいいですがね、一度始めたこと
は、早く、やり終えてしまいたいので。なんです、チーフ?」
「別人みたいだぞ」
「そうですか?」
「仕立て屋の顔じゃない」
「仕立て屋じゃありません。少なくとも、今はね」
 ボクタは、居住区の通路で、パルス発生装置を調整していた。
「昔、ガラックにスーツを頼んで、できてきたら、袖丈そでたけが長かった。僕
おこって、ガラックにもう一度直させた」
「で、何が言いたいんだ?」と、アマロ。
「あんな、こわい男だと知っていたら、怒鳴り込まなかったよ。ガラッ
クは、ふたり目も殺すかな?」
「いいや、ふたり目は、おれが殺してやりたい」
「気持ちわかるよ」

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「ストルゾフは親友だった。アカデミーの同期さ。スパーリングのパー
トナーだったんだ。初めて対戦した時、女だから手加減してやろうと思
ったもんさ。ふん、でも、ノックダウンされて、そんな考えは、どっか
に吹っ飛んだよ。格闘技にかけちゃ、男のおれも、かなわなかった。彼
女のワンツーは抜群だったな。右へフェイントをかけて、バックハンド
で首へチョップが来る、いつも、やられたよ。一度、勝ちたかったな。
彼女の得意技を使って、やっつけたかった。きっと、喜んでくれたのに」
「こいつが、はずれない!コイルスパナを取ってくれないか?」
「どんな形だ?」
「端にふたつ、突起があるやつだ、うわぁぁぁ」
 アマロが振り向くと、ボクタは、カーデシア兵士に踏み付けられて悲
鳴を上げていた。カーデシア兵士は、銃を構えたが、背後からフェーザ
ー銃で撃たれて倒れた。向こうにいたガラックは、近づいてきた。
「このコイルスパナを取ってくれと言われて、一瞬、背を向けたすきに」
と、アマロ。
「バカをしたな、もっと、バカなことには、これは、コイルスパナじゃ
ない」と、ガラックは言うと、工具でアマロを刺した。
「うわぁぁぁぁ」
「これは、フラックス、カプラーさ」


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            4
 
 チーフオブライエンは、貨物室での修理中を終えた。
「よおし、これでいい。オブライエンより、ボクタ!ボクタ、応答せよ!
アマロ、何かあったのか?」
 チーフオブライエンとノーグは、いそいで居住区の通路へ向かった。
アマロは、胸を刺されて倒れていた。
「早く、あいつを!」と、アマロ。
「アマロ、落ち着け!あいつって誰だ?」と、チーフオブライエン。
「ガラックです、奴に刺された!」そう言うと、アマロは死んだ。
「チーフ、なんで、ガラックが、こんな」と、ノーグ。
「行こう!まだ、近くにいるだろう」
「だけど、おかしいですよ、ガラックは、味方でしょ?」
「いやぁ、もう、違う!薬の影響だ!きっと、ガラックも、薬に触れて
しまったんだ。気付くべきだった。アマロを、わざと挑発した時も、敵
を殺しに出て行った時も、変だったのに」
「次は、僕たちを殺しにくる?」
「ああ」
「説得したらどうでしょう?殺したくなるのは、薬の影響なんだって言
えば」

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「アマロの殺し方を見ただろ?聞くはすがないさ!」
「ディフレクタグリッドをセットアップして、早く、SOSを発信しま
しょう!」
「ガラックは計画を知ってる、きっと、邪魔するぞ」
「でも、やってみないと」
「いやぁ、無理だ、SOSを打とうとして、もう、四人の部下を失った
んだぞ。ガラックの言う通り、敵が襲って来た時、迎い撃つべきだった
んだ。敵が来るのを、待つのではなく、自分からゆく。行こう!ガラッ
クのあとを追うんだ」
「いたら、殺す?」
「他に方法がなければ、殺す」
 ガラックは、司令部の床を捜していた。
「どこかにあるのは、わかっているんだぞ。ああ、そこにあったか。ガ
ラックよりチーフオブライエン。何を見つけたか、教えてあげましょう
か。コトラのボードです。ステーションの司令官が残していったんでし
ょうね。駒は散らばっていましたが、テーブルの下で、最後のひとつを
見つけました」
 チーフオブライエンは、通信バッジでガラックの話すのを聞くと、ノ
ーグと司令部に急いだ。
「どうです?まさに、今の、この状況を象徴しているゲームだと思いま

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せんか?うん?ふたりの戦い、こころもふたつ、戦略もふたつ、お互い
相手を出し抜こうとして、敵の守りの穴を捜している、前に出たり、下
がったりしながら」
「ふたてに分かれよう、君は通路から司令室へ入り、僕は司令官室から
入る」
「ただし、現実と違うところは、生死がかかっているところだ。そのお
かげで、いっそう、楽しめますがね、はは、はははは、こんなに楽しい
思いは何年かぶりかですよ。胸が高鳴り、沸き立つ血が、からだじゅう
を流れています。いやぁ、生き返った気分だ。あなたもそうでしょう、
チーフ」
 チーフオブライエンとノーグは同時に司令部に入った。コトラのボー
ドには、誰もいなかった。司令官室のドアが閉まり、エネルギーバリア
で遮断された。ノーグは、ガラックに背後から襲われた。
「あなたの最後の駒を、捕まえましたよ」と、ガラック。
「返して欲しければ、私から、取り戻してごらんなさい」






52

51





            5
 
 チーフオブライエンは、エネルギーバリアに触れると、バリアが消え、
司令官室のドアが開いた。彼は、コトラのボードを銃でひっくり返した。
「チーフの番ですよ、どうします?攻撃か、撤退か?降伏か?」
「ガラック、薬のせいだ、薬に負けるな!戦ってくれ!」
 ガラックは、ノーグを縛り上げて、動けないようにした。
「戦う?最高の気分なのに、ゲームに心躍るなんて、何年ぶりかですよ」
「これはゲームじゃない」
「いいえ、ゲームです、ゲームは人間性をあらわにする」
「どこにいるんだ?」
「あなたの目を見ましたよ。私がノーグを人質に取った時、私を殺した
いと思ったでしょ。目にはっきり殺意が出ていましたよ」
「僕は、ただ、部下を無事に返して欲しいだけだ」
「いいや、あなたは殺人鬼だ。私もです。合法的な連邦士官の仮面の下
には、獣 けものが隠れている。私とおんなじだ」
「いやぁ、僕は、君とは違う」
「いやぁ、同じです、セトリックスリーで何人カーデシア人を殺しまし
た?十人、二十人、百人」
「覚えてないね」

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53





「しかし、気持ちは覚えているでしょう。これ以上カーデシア人に、部
下を殺させまいと、打って出た時の気持ち、血には血をだ。敵を殺すの
は、楽しかったはずです。瞳から、生気が失われてゆくのを見るのは、
快感だったはずだ」
「どうしても決着を付けたいのなら、いいだろう、ケリをつけよう!君
と僕、一対一で」
「それこそ、望むところですよ、プロムナードで落ち合いましょう」
「丸腰でな」
「ええい、武器なしで」
「引き金を引きたい気持ちを、どんなに我慢しているか。おまえには、
わかるまい。大事な人質だからな」
 チーフオブライエンは、プロムナードに来ると、ストルゾフとペチェ
ッティの死体が縛られて吊るされていた。ボクタとアマロの死体も縛ら
れて吊るされてるのが見えた。
「忠実な部下たちが、応援していますよ。殺されても、あなたに恨みは
ないようですね。私の支持者は少ないですが、やっぱり忠実ですよ。丸
腰でという約束でしょ」
 ガラックが、縛られたノーグに銃を突きつけていた。
「君だって、持っているだろ」と、チーフオブライエン。
「気付かなかったな。でも、銃は必要ありませんね。銃を床に」

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「君からだ」
「あなたからだ。でないと、ノーグとはお別れだ」
「だめです、チーフ」と、ノーグ。
「心配することはないさ」と、ガラック。
「丸腰の相手は撃たないよ、それじゃ、楽しくないですからね」
 チーフオブライエンは、銃を床に置いた。
「もう一丁、隠していませんか?後ろに」
 チーフオブライエンは、後ろに手を廻してフェーザーをふたつ床に置
いた。
「君の番だ」
「正直、すぐ撃ち殺したいところですが、でも、それでは、せっかくの
楽しみが、味わえませんからね」
 ガラックは、銃を脇に置くと身構えた。ニ三発殴り合って、チーフオ
ブライエンは、床に倒れた。
「うう、わぁぁ」
「がっかりですよ、チーフ、あなたの目にあるのは、血に飢えた輝きで
はなく、恐怖だけだ」
 チーフオブライエンは、ガラックに一方的に殴られて、再び床に倒れ
た。
「うう、おおぁ」

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「情けない、とても軍人とはいえない、ていたらくだ」
「その通りだ、僕は、エンジニアさ」
 チーフオブライエンは、通信バッジに触れて信号を送ると、先ほど床
に置いたフェーザーが爆発して、ガラックを吹き飛ばした。
「うわぁぁぁ」
「ノーグ、無事か?」
「自分は、大丈夫です。ガラックは?死んだんですか?」
「いいや、生きているよ」
「ああ、ああ」

            エピローグ
 
 ガラックは、ディーエスナインの医療室で横になっていた。
「ニ三日で元気になるよ」と、ドクターベシアは言った。
「神経を侵していた、例の薬は、もう中和したからね」
「おだやかな顔だ」と、チーフオブライエンは言った。
「あの時とは、別人みたいだよ」
「ある意味では、別人さ。薬で攻撃本能が目覚め、人格を乗っ取ったわ
けだから。自分でもどうしようもなかったろう」
「話していいか?」

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「少しなら」
 チーフオブライエンは、ガラックに触れると、ガラックは目を覚まし
た。
「いろいろあったが、無事、プラズママニフォールドは、持ってこられ
たよ。今、組み込んでるところだ」
「任務完了ですね」と、ガラック。
「全然、計画通りには行かなかったけどね。事情聴取があるそうだ」
「ええ、それは、さっき聞きました。チーフ、ひとつ、お願いがあるん
ですが」
「大丈夫だ、事情を言えば」
「そのことじゃありません。本当に、申し訳なかったと、アマロの奥様
に、伝えて欲しいんです。本当なら、自分で言いに行きたいんですが、
歓迎されないでしょうし」
「伝えておく」
「ありがとうございます」
「爆発で、肋骨が二本折れていたんだってね」
「たいしたことありませんよ、フェーザーにもっと近かったら、死んで
いたかんもしれませんし」
「ああ、正直に言うと、殺す気だった」
「わかってますよ」

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「それじゃ、またな」
 
 
 
                    (第五_六_四話 終わり)
















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