星雲を越えて
             ━━━スタートレック 第三話
             サイモンペッグ、ダウユング
              
            プロローグ
             
 宇宙を航行する、エンタープライズ NCC1701。
 茶色の岩ばかりの惑星に接近すると、周回軌道に入った。
「私は、ジェームズタイベリアスカーク船長、惑星連邦から来ました」
と、カーク。異星人の評議院の前で発言していた。「フィボナン共和国
委託いたくされ、停戦のため調停に来ました。彼らは、友好的です。われわ
れは、あなた方、ティナックス代表団に、フィボナン最高評議会からの
贈り物を持ってきました」
 カークが手にした金属製の鍵を両手で操作すると、ふたがひらいた。



 

2

1
























































「なぜ、よこすのだ?」と、ティナックスの酋長。しゅうちょう野牛の顔に、たくま
しい体形で、こん棒を持っていた。
「え?なんですって?」と、カーク。
「やつらは、なぜ、手放す?」
「この遺物は、古代の武器ですが、それを、平和のシンボルとして差し
出すのです。フィボナンの文化で、武器を差し出すのは、和平のしるし
です」
「どうやって手に入れたのだ?」
「遠い昔に入手した、と聞きました」
「では、盗んだのだな?」と、酋長。しゅうちょう
「いいえ、彼らは」と、カーク。言いよどんだ。
「フィボナンがどんなやつか、知らんではないか!」酋長はしゅうちょう語気を強め
て、こん棒を投げ捨てた。
「ええ、かもしれません。ですが、この歴史的遺物は」
「やつらは、信用ならん盗賊の一味で、われわれを皆殺しにするつもり
だったのだ!」
「いえ、この古代の遺物は、信頼と平和の象徴であって」
「われわれを、ズタズタに切り刻み、火の上でジュージュー焼くつもり
だ!」
「思い過ごしです」

4

3
























































「そして、食いまくる!」酋長はしゅうちょう、うめき声をあげた。
「はい?」と、カーク。
 酋長はしゅうちょう、壇上から飛び降りて、カークに突進した。
 カークも、ファイティングポーズをとった。
 ティナックスの種族は、背が低く、カークのひざまでしかなかった。
しかしジャンプ力はあって、カークの肩に飛びかかった。カークは、両
手で振りはらおうとしてが、背中にまわられた。
 さらに全員が、グレムリンのようにカークに飛びかかってきた。
「スコット、転送してくれ!」と、カーク。通信バッジに。
「もう、終わった、会議?」と、スコット。通信バッジから。「地上の
信号は、とらえにくくて」
「早く!」と、カーク。何匹かに飛びかかられたまま、転送された。
 
               ◇
 
 エンタープライズの転送室。
 スコットの操作で、カークが転送されてきた。いっしょに、ティナッ
クスの2匹も転送された。1匹は、制服の肩を、もう1匹は、カークの
長靴をずたずたに引き裂いていた。保安部が2匹を、カークから引き離
した。

6

5
























































「また、シャツを破られた」と、カーク。長靴を拾って、出て行った。
「どうでした?」と、スコット。
 
               ◇
 
 エンタープライズの通路。
 カークが歩いてくると、うしろに副長のスポックと医療主任のボーン
ズことマッコイがついて歩いた。
「ティナックスとは、合意にいたったのですか?」と、スポック。
「ああ、いや、いたらなかったな」と、カーク。長靴でなく、古代の遺
物を、スポックに投げた。「これを、保管庫に!」
「ジム、ひどいなりだな!」と、マッコイ。ずっとカークを医療用トリ
コーダで診察していた。
「ありがとう、ボーンズ」
「また、ひたいの血管が浮き出ているぞ!だいじょうぶか?」
「サイコーだよ!いつものことだ!」





8

7
























































            1
 
 宇宙を航行する、エンタープライズ。
「船長日誌、宇宙暦2263・2」と、カークの声。
「今日は、われわれが、ディープスペースで過ごす966日目、5年間
の任務の、3年目に入っている」
 カークは、起きて顔を洗って、タオルでぬぐった。
「宇宙での日々が長くなると、1日がどこで終わり、どこから始まるの
か、しだいに分からなくなる」
 カークは、洋服かけにずらりと並んだ制服の前で、立ち尽くしていた。
 通路を歩く、カーク。女性隊員があいさつした。
「人工重力はあるが、地に足をつけた感覚とは、言えない」
 カークは、コーヒーカップ片手に、ブリッジに入った。
「だが、みな、ここを我が家と思うようつとめている」
 ブリッジで働く、クルーたち。
「クルーは、宇宙での滞在が長く、つらいなかでも、いつもどおり献身
的に、がんばってくれている」
 ウラは、通信コンソールを見ていた。
「家族に会えない日々も耐えている」
 パイロット席のミスターカトウは、パネルの上に子どもの写真。

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9
























































「われわれの任務は、引き続き、新らたな生命体をさがし、友好の絆をきずな
結ぶこと」
 通路では、2人の保安部員が、まだグレムリンを追いかけていた。
「まだ、星図にのっていない宇宙を旅する不安は大きいが、われわれに
は、幸運なことに、優秀な機関室長ミスタースコットがついている」
 機関室では、スコットが小さな宇宙人キーンザーをからかっていた。
キーンザーは、おこって機械をたたいた。
「船は安心だが、長引く共同生活は、クルー同士の関係にさまざまな影
響を及ぼす。いい関係を結ぶ者もいれば、関係を終わらせる者もいる」
 カークは、船長席に座った。
「私の場合、日々が、なんというか、少々行き詰ってはいる。遠くへ行
くほど、迷子になる気がした。われわれの宇宙探査の任務も、本当に宇
宙が無限なら、われわれの努力は、永遠に報われないのではないかとい
う不安からだ」
 スポックは、古代の遺物の記録を残してから、保管庫にしまった。
「エンターブライズは、まもなく、ヨークタウンで休暇をとる。最新鋭
で、地球から最も遠い基地だ。ルーティーンから解放され、未知の謎を
追うのも、しばらくは、お休みだ」
 カークは、船長日誌を惑星連邦に送った。
 

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               ◇
 
 宇宙を航行する、エンタープライズ。
 カークは、バーカウンターにいた。照明は、暗かった。
「すまない、遅れて」マッコイが入ってきた。「キーンザーが強酸性の
鼻水を垂れ流して、スコットが大騒ぎだ。ワープコアにくしゃみでもさ
れたら、終わりだと」
「はは」と、カーク。
「なに飲んでる?」
「ああ、セイサス星で積み込んだ、ソーリアンブランデーだ」と、カー
ク。
「こんな酒飲んでいたら」マッコイは、ビンのラベルを見ていた。「目
がつぶれるぞ!そもそも、違法だ!それに、これ!」マッコイは、別の
ビンを持ち上げた。「チェコフのロッカーで見つけた」
「スコッチ?」と、カーク。
「ああ、やつは、てっきりウォッカを飲むものと思ってたがな。おまえ
の誕生日をなんとか祝ってやりたくて」
「ああ、2日後だし、誕生日は嫌いだ!」と、カーク。
「知ってる。父親の命日でもあるからな。変に気を使われるより、率直
でいいだろ?」

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 マッコイは、グラスにスコッチを注いだ。
「医学部では、気配りは教わってないのか?」と、カーク。「そこが、
おまえの魅力か!」
 ふたりは、乾杯した。
「いいね、うまい!」ふたりで、声をそろえて。
「母親に電話は?」と、マッコイ。
「ああ、当日にはするよ」と、カーク。「1つとしをとった」
「ま、普通は、そういうもんだ」
「おやじより、1つ年上だ。おやじは、宇宙艦隊に、信念で入った。オ
レは、意地だけで」
「おまえ、おやじに追いつきたかったんだろ?もがいて、あがいて、ジ
ョージカークになろうとしていた。だから、自分がなんなのか、見失い
かけてる。なぜ、ここにいるのか?まだ見える目と、ふさふさの髪に!」
 ふたりは、また、乾杯した。
 そのとき、通信バッジの音。
「カークだ」
「船長」と、通信バッジからカトウの声。「まもなく、ヨークタウン基
地です」
「すぐに戻る、ミスターカトウ!」
 カークは、立ち上がった。

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15
























































「誕生日というのは、だれにも言うなよ!」と、カーク。
「まかせとき!ミスター気配りだぞ!」と、マッコイ。
 
               ◇
 
 カークとマッコイは、ブリッジに戻った。
 スクリーンに、ヨークタウン。十字コマが、透明の球体におおわれた
形だった。
「見事な基地ですね!」と、チェコフ。
「ああ、ホント、よくできてる!」と、スコット。
「こんなデッカイもん、作ったのか」と、マッコイ。「どっかの星、借
りればいいのに!」
「どこかの惑星とだけ懇意こんいにすれば」と、スポック。「中立性に、疑問
を持たれてしまいますから」
「だからって、作りゃいいのか?」と、マッコイ。「こんなスノーボー
ルみたいなもん、すぐにこわれそうだ!」
「おまえらしいよ、ボーンズ!」と、カーク。
 
               ◇
 

18

17
























































 エンタープライズは、ヨークタウンの中へ入った。そこは、十字コマ
のヒダがハイウェイのように何本も縦横無尽に走り、その上に無数の高
層ビルが立ち並ぶ構造になっていた。高層ビルに囲まれた地面には、多
くの人々が行きかい、電話ボックスのような、転送ボックスも自由に使
えた。空を飛び交うエアカーに、超高速で通過するモノレール。それを
展望ホールから見ている、子どもは緑の肌をしていた。
 エンタープライズは、格納庫へのガラス張りの広い通路をゆっくり進
んだ。歩行者用通路がドッキングすると、クルーが降りてきた。スポッ
クは、名前を呼ばれて立ち止まった。
「スポック!」と、ウラ。「時間ある?」
「もちろんだ、ニオタ!」と、スポック。
「これを、返さないと!」ウラは、ネックレスを首からはずそうとした。
「お母さまの形見ですもの」
「それは、きみに贈ったものだ!」と、スポック。「返されるというの
は、バルカンの習慣にはない!」
 ウラは、了解して、スポックの頬にキスをすると去って行った。マッ
コイが近づいてきた。
「おい、分かれたのか?」と、マッコイ。「なに、した?」
「あなたには、なんの影響もないことだ」と、スポック。
「地球の女が、悪いのはわたしよ、あなたじゃないわ、と言うときは、

20

19
























































おまえが悪い!」マッコイは、歩いていった。
「失礼します」と、バルカンの長老がふたり、スポックに声をかけた。
「スポック少佐、お時間はよろしいですか?」と、ひとり。
 
               ◇
 
「すごいよ、この基地!」と、チェコフ。女性クルーと歩いていった。
「ここは、初めてなんだ!聞いた話だと、ここのバーは、すごくいいら
しいよ!」
 カトウは、迎えに来た兄を見つけて走り寄り、子どもを抱き上げた。
「ふふふ」と、カーク。クルーが休暇に出るのを、見ていた。
 
               ◇
 
 薄暗い展望広場。スポックとバルカンの長老がふたり。
「知らせてくれて、感謝する」と、スポック。「長寿と繁栄を」右手を
上げて、指を奇妙に開いた。
「長寿と繁栄を!」長老のふたりも、右手を上げて、指を奇妙に開いた。
そして、スポックから離れていった。
 スポックは、長老から渡されたパネルを見ていた。そこには、スポッ

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21
























































ク大使の肖像写真とともに、亡くなったことが記されていた。
 2230・6ー2263・2
 スポックは、高齢の大使が32才で死んだのが信じられない気がした
が、バルカンには、公式記録を疑う習慣はなかった。
 
               ◇
 
 ヨークタウン基地の監視塔。
 監視衛星の脇を、救難ポッドが基地に向かって落ちていった。
「IFFアラート!」と、監視員。「船籍不明の宇宙船が、接近中!連
邦の船ではありません!」
「船籍不明の船に告ぐ!」と、監視チーフ。「接近許可はない!エンジ
ンを切り、指示を待て!」
 ヨークタウンの小型の警備艇が5隻、救難ポッドを追尾した。
「船籍不明船、応答せよ!」
 スクリーンに、救難ポッドの女性船長の映像。なにを言っているのか、
調整できてなかった。
 
               ◇
 

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23
























































 ヨークタウン基地のエアロック。救難ポッドの女性船長が立っていた。
「ふつうに話して!」と、隊員。
 ヨークタウンの女性提督が、脇で見ていた。そこへ、カークも来た。
服は、ヨークタウンのブルー系で、クラシカルな海軍将校の制服に着替
えていた。
「言語解析、完了!」と、コンピュータ。
「これで、通じるのね?」と、女性船長。服は白で、髪の毛がカニの足
のようで、後ろにまとめられていた。「科学調査で、ある星雲にいたら、
われわれの船が危機的なダメージを負いました。わたしは救難ポッドで
脱出。その後、船は、近くの惑星に不時着しました。星雲の中を、すり
ぬけて飛べる船が必要です。どうかわたしたちを、助けてください!」
 カークも聞いていた。
 
               ◇
 
 ヨークタウンの会議室。
「星雲で不時着した、彼女の船の位置を割り出したわ」と、女性提督。
「座標は2・1・0、マーク1・4」立体モニターに、星雲。
「ああ、長距離スキャンは?」と、カーク。
「データが取れない。星図になかった星域だし、密度が高すぎて」

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25
























































「エンタープライズのナビゲーションシステムなら、中を飛べます」
「もっと性能のいい船を建造中だけど、完成には、程遠いの。しかも、
船だけで行くわけではないし」
「クルーを集めます!」と、カーク。室を退出しようとした。
「カーク船長!」と、女性提督。「あなたが副提督に昇格し、この基地
での勤務を希望しているという書類が届いたわ」
「そうです、もし、可能なら」と、カーク。「エンタープライズの船長
には、スポック少佐を推薦します。彼は、仕官としてすばらしい資質を
持っています」
「珍しいことでは、ないわ。船長が、船を降りたいというのは。広大な
宇宙では、相対的な方向はありませんから。あなた自身があるだけ。あ
なたの船と、クルーがね。道に迷うのも、よくあることよ!」
「そういうことでは、ありません」
「委員会に報告しておきます。戻ってから話しましょう!」
「はい」と、カーク。会議室をあとにした。
 
               ◇
 
 エンタープライズは、ヨークタウンの燃料補給用チューブをはずした。
「やぁ、スポック」と、カーク。エレベータに乗り込んだ、制服は、命

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27
























































令仕官の黄。
「船長!」と、スポック。制服は、技術仕官の青。
 同時に、なにか言いかけた。
「いえ、船長から!」と、スポック。「お先に、どうぞ!」
「この任務が終わったら、時間をくれ!折り入って、話がある」
「私にも、ご報告すべきことが!」
 ふたりは、しばらく黙った。
「いいコンビだな、オレたち!」と、カーク。
「ええ、そう思います」と、スポック。
 エレベータが、ブリッジに着いた。
「お先どうぞ!」と、カーク。
 
               ◇
 
 エンタープライズは、ヨークタウン基地を離脱した。
「ウラ中尉、全船内に放送!」と、カーク。
「はい、船長」と、ウラ。制服は、機関室仕官の赤。
「ピーヒャラヒャラー」と、艦内放送の合図。
「エンタープライズの諸君!」と、カーク。
 通路では、黄や青や赤のさまざまな制服のクルーたちが、放送を聞い

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29
























































ていた。小さな宇宙人キーンザーは、赤で、手にパネルを持っていた。
「今回の任務は、ごく単純だ」
 多数の岩石が漂う星雲に、遠くの太陽が光っていた。
「星図にない惑星に不時着した船のクルーを救う。不安定な星雲の中を
進むことによって、艦隊との連絡は、いっさい取れなくなる」
 星雲の中を操縦するチェコフとカトウ。ふたりの制服は、黄。
「つまり、助けは呼べない!だが、エンタープライズには、ほかの船に
はない強みがある。きみたちだ!」
 巨大な岩石をスレスレに飛ぶ、エンタープライズ。
「そして、世界には、理解不能のものなどない。まだ、見つかっていな
いだけだ。通信は、以上!」
 マッコイは、医療室で聞いていた。制服は、青。
「数値を見ると」と、チェコフ。「星雲の濃度は、減少してきました」
 エンタープライズが、多くの岩石を抜けて飛ぶと、白の惑星が見えた。
「わたしの船が」と、異性人の女性船長。服は、ヨークタウンのブルー
系で、クラシカルな海軍将校の制服に着替えていた。「不時着した、ア
ルタミド星です」
 惑星に近づくと、地平線上に、太陽が輝いていた。
「アルタミドに接近」と、スポック。パネルを操作していた。「Mクラ
スの惑星です。地殻ちかく活動は活発ですが、地表の生命活動に、影響はなし」

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31
























































「接近警報です!」と、チェコフ。「正体不明の船が、向かってきます」
「ウラ、呼びかけろ!」と、カーク。
「はい、船長!」と、ウラ。パネルを操作した。「応答なし。なにか信
号を出しています」
 エンタープライズに向かって、巨大な船が数隻、飛行して来た。
「妨害信号です!」と、ウラ。
「スクリーンに拡大!」と、カーク。
 スクリーンには、巨大な船が数隻、映った。
「なんだ、これは?」カークは、異性人の女性船長を見た。
 彼女は、なにも言わなかった。
「シールドを上げろ!」と、カーク。「非常警報!」
 非常警報が響き渡った。
 巨大な船に見えたものが、無数の小型艇に分かれて、突進して来た。
「攻撃してよし!」と、カーク。
 エンタープライズは、フェーザ砲や魚雷を発射した。
「船長」と、チェコフ。「フェーザ砲は、簡単によけられ、魚雷は敵の
動きについてゆけません!」
「なんでもいい、攻撃しろ!」と、カーク。
「われわれの武器は、この敵に向いていません!」と、スポック。
 何隻かが、エンタープライズの円盤部にぶつかった。ディフレクター

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ボードにも無数にぶつかった。
「どのシールド周波数でも」と、チェコフ。「防げません!」
「ディフレクターボードは破壊!」と、カトウ。「シールド生成不能で
す!」
「ワープで脱出、ミスターカトウ!」と、カーク。
「了解!」と、カトウ。左手で、ワープのアームを倒した。
 無数の小型艇が、イナゴの大群のようにエンタープライズを襲った。
「なぜ、ぜんぜん動かない?」と、カーク。
「ワープドライブが、反応しません!」と、カトウ。なんども、アーム
を倒した。
 イナゴの大群が、なんども、エンタープライズを真っ黒におおった。
「スコット、今すぐワープさせろ!」と、カーク。
「だめです!」と、機関室のスコット。「ナセルが両方━━━」
 イナゴの大群が、ナセルに襲いかかり、2つのナセルは本体から切断
されて、宇宙空間に漂った。
「なくなった!」と、スコット。
「ああ」と、カトウ。船長を見た。
「保安部」と、カーク。「すべての緊急用措置そ ちをとれ!プロトコル28、
コード1アルファ0」
 保安部員は、武器庫からつぎつぎにフェーザ銃を手に取った。

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35
























































「全員、緊急体制につけ!」
 通路では、アラートの赤の照明下で、クルーたちが走り回っていた。
 マッコイとスポックは、席を立ち、エレベータに乗り込んだ。スポッ
クはフェーザー銃を構えた。
 イナゴの大群は、エンタープライズを真っ黒におおいながら、徐々に
接近していった。
 そして、つぎつぎに船体に突進した。
「船体に亀裂が発生!」と、チェコフ。「12~15区画、6、9、3
1と21区画にもです!」
「船長!」と、スコット。「残った燃料を、ワープコアから通常エンジ
ンに、送れそうです!」
「星雲に戻れば」と、カーク。「やつらをまけるかも!やってくれ!」
「キーンザー!」と、スコット。機関室で、小さな宇宙人が振り向いた。
「ゆくぞ!」
 通路には、何隻もの小型艇が外壁を貫いて侵入していた。暗闇に火花
の中、クルーたちがフェーザー銃を構えた。そこへ、小型艇から乗り込
んできた多くのアルタミド星人が戦闘服で攻めてきた。先頭の敵だけフ
ェーザーで倒せたが、後からくる敵に、つぎつぎにクルーは撃たれた。
 機関室では、クルーと敵の間で、すさまじい銃撃戦になった。
 そのとき、敵の隊長が放った雷光銃の緑の閃光で、機関室のクルー7

38

37
























































人を倒した。
「ヘクータ、クラル(クラル殿、敵を倒しました)!」と、敵の隊長。
顔は、凶暴なイナゴ。
 敵の司令官、クラルは、護衛が多数待機する通路に、小型艇から降り
立った。
 
               ◇
 
 スポックが銃を構えて、マッコイと通路に出てくると、赤のアラート
照明の下、多くのクルーが倒れていた。
 
               ◇
 
 保管庫。
 ドアが破壊され、敵の司令官が護衛とともに、保管庫に現われた。
 
               ◇
 機関室。
「プラズマコンジット、準備!」と、スコット。オペレータ室にいる、
小さな宇宙人に。「オレの合図で、燃料を送れ!」スコットは、はしご

40

39
























































を降りた。オペレータ室から見えるシャトル格納庫では、シャトルがい
くつも、敵艦の攻撃で爆破された。
 
               ◇
 
 保管庫。
 スポックは、銃を構えて、待ち伏していた。
 敵の司令官は、センサーを見ながら、古代の遺物を見つけた。
「ア、ドボ、ナス、タ(アブロナスを見つけた)!」と、敵の司令官。
「ワ、キス、ターポ(これで、船は安全だ)!」
 敵の司令官は、隠れているスポックを見つけた。護衛が、全員その方
向へ銃を撃った。
 
               ◇
 
 通路。
「船長!」と、スポック。逃げながら。
「報告しろ!」と、カーク。ブリッジで。
「攻撃部隊のリーダーらしき人物を、確認!保管庫に侵入し、ティナッ
クスの遺物を、奪いました」

42

41
























































「距離を保ち、逃げろ!」と、カーク。「スポック!」敵の雷光銃の音。
「ふたりは、いっしょに来い!ミスターカトウ、船長席を頼む!」
「了解!」と、カトウ。船長席についた。
 
               ◇
 
 通路。
 トリコーダで調べながら、マッコイが歩いていた。通路には、多くの
クルーが倒れていた。ひとりのクルーが、息があった。マッコイは、す
ぐに近づいて、トリコーダで調べた。
「なんだ?」と、マッコイ。肺の映像を見ると、なにかが進行していた。
クルーは、ひどくやせ細っていた。「どうして?」
「ドクター!」と、スポック。走ってくると、振り向いて銃を撃った。
敵が、ふたり倒れた。「ドクター!今すぐ、脱出です!」ふたりは、ミ
イラのようになったクルーを残して、走った。緑の閃光が、飛び交った。
 
               ◇
 機関室。
 スコットが、プラズマコンジットの調整を、大急ぎでやっていた。
 

44

43
























































               ◇
 
 通路。
 カークは、ひとりで通路を銃を構えて進むと、敵の司令官の一群に出
くわした。敵の司令官は、左手で古代の遺物を大切そうに運んでいた。
通路を横断するときに、銃撃戦になって、カークは敵の司令官に、右手
ひとつでつかみあげられた。
「カーク」と、敵の司令官。「船長」
 カークは、銃を落とし、首をつかまれて声が出なかった。
 
               ◇
 機関室。
 スコットは、ジェフリーチューブをやっとつなぎ合わせた。小さな宇
宙人が、円盤部のプラズマに点火すると、船体が大きく揺れた。
 
               ◇
 
 通路。
 カークは、斜めになった通路の床をすべり落ちた。古代の遺物も近く
にすべってきたので、カークはそれを手にした。

46

45
























































 
               ◇
 
 ブリッジ。
「よし!」と、チェコフ。船長席を見た。「通常エンジン、100%!」
「さすがだ、スコット!」と、船長席のカトウ。「出力最大で、星雲に
進め!」
「はい!」と、チェコフ。
 エンターブライズは、いなごの大群に追われながら、岩石ばかりの星
雲へ向かった。異性人の女性船長は、立って見ていた。
 
               ◇
 
 通路。
 エンターブライズは加速し、スポックとマッコイは、通路をすべった。
「クラル、バセッポ、タイ(クラル殿、船が星雲に向かってます)!」
敵の隊長が、無線で敵の司令官に。
 敵の司令官、クラルは、無線で、指示を出した。
「ボイス、ワ、クッダ(のどをかきっ切れ)!」
 エンターブライズは、星雲に向かったが、いなごの大群に追いつかれ、

48

47
























































機関室との連携部分を切断され、通路にいた者たちは、クルーも敵も宇
宙空間に吸い出された。
 スポックとマッコイは、滑ってきたところが脱出ポッドで、そのまま
船外へ発射された。しばらく飛行していると、敵の小型艇が突き刺さっ
てきた。突き刺さった状態で、宇宙空間を回転しながら飛行していった。
 
               ◇
 
 通路。
 カークは、円盤部の通路で壁につかまっていた。
「カークよりブリッジ!」と、カーク。通信バッジに。
「慣性ダンパーがきかなくなっています!」と、チェコフ。
「船全体のシステムの機能が、落ちてます、船長!」と、カトウ。「緊
急隔壁は、作動してますが、構造強度は、18%から下落中!」
「船を、捨てろ、ミスターカトウ!」と、カーク。
 
               ◇
 
 ブリッジ。
「アラームを鳴らせ!」と、カトウ。

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49
























































 緊急アラームが響き渡った。
「船を放棄!全乗組員は、即時、脱出!」と、コンピュータ。
「脱出ポッドが逃げやすいように」と、カーク。通信バッジから。「船
を操作できるか?」
「通常エンジンは」と、カトウ。「まだ、ワープコアにつながっている
状態です!円盤部が切り離されるまで、なにもできません!」
「オレが、やる!」と、カーク。
「了解です!」と、カトウ。
「船を放棄!全乗組員は、即時、脱出!」と、コンピュータ。
 
               ◇
 
 通路。
 カークのいる場所の近くに、男性クルーが倒れたまま滑ってきた。
「大丈夫?」と、女性クルー。「お願い、手を貸して!」
 近くにいたもうひとりのクルーと、男性クルーを助け起こした。
「脱出ポッドに乗れ!行け!」と、カーク。「シル少尉!」女性クルー
を呼び止めた。「頼みがある!」
「なんでしょう?」と、シル少尉。
 カークは、シル少尉に床を持ち上げさせて、そこに古代の遺物の本体

52

51
























































だけを隠した。古代の遺物の外側の部分は、カークが自分で持ち歩いた。
 
               ◇
 
 脱出ポッド。
 スポックは、突き刺さった敵の小型艇に乗り込んで、ひじ鉄を食らわせ、
ハッチをあけて、船外へ放出した。マッコイも、小型艇に移ってきた。
 船外では、切断された機関室周辺から、多くの脱出ポッドが発射され
た。いくつかは、敵の小型艇にぶつかった。
「まずいぞ!」と、マッコイ。敵の小型艇の窓を見ながら。「やつら、
クルーを誘拐している!」
 
               ◇
 
 通路。
 敵の司令官は、ワープコアに通じる広い室の向こうを、カークが走る
のを見た。
「船を放棄!全乗組員は、即時、脱出!」と、コンピュータ。
 
               ◇

54

53
























































 
 ワープコアの室。
 カークが走ってきて、ワープコアのアームを引き出して、ひらいた。
 敵が撃ってきた。
 カークは身を隠すが、敵の司令官がぶつかってきて、古代の遺物を落
とした。すぐに拾いあげ、身をかわして、敵の司令官をよけた。
 
               ◇
 
 ブリッジ。
「あきらめて、時間がないの!」と、女性クルー。多くのクルーが、ブ
リッジを後にしようとしていた。
「大丈夫?」と、ウラ。倒れたクルーに。
「円盤部の切り離しは、まだか?」と、カトウ。
「船長がやると言ったのだから、きっと、大丈夫です!」と、チェコフ。
 ウラは、それを聞いていた。
 
               ◇
 
 魚雷発射室。

56

55
























































 スコットが、敵に追われながら、逃げてきた。
「全乗組員は、即時、脱出!」と、コンピュータ。
 スコットは、あたりを見回したが、もう、逃げ場はなかった。
 敵の隊長と部下たちが、銃を構えて入ると、1発の魚雷が発射管に送
り込まれ、発射された。
 中に、スコット。弾頭をはずして、酸素マスクを付け、乗り込んでい
た。魚雷は、発射口のハッチを破壊して、宇宙空間に出た。コントロー
ラで魚雷を操縦しながら惑星へ向かった。
 
               ◇
 
 ワープコアの室。
 ウラは、走ってきて、敵に出くわした。
「オリャー」と、ウラ。敵を、手すりの外へ投げ飛ばし、落とした。
 その上の階で、カークは、まだ、敵の司令官と格闘していた。
 ウラは、別のワープコアのアームを引き出して、ひらいた。
 カークは、もみあいになって、下の階に敵の司令官と落ちた。プラス
チック容器が、砕け散った。古代の遺物が転がった。敵の司令官は、そ
れを手にした。
 ウラは、敵の司令官に気づかれないようにしながら、パネルを操作し

58

57
























































て、円盤部切り離しボタンを押した。
 敵の司令官は、落ちていた銃で、カークを撃ったが、円盤部の隔壁が
閉まり、あたらなかった。
 カークのいる円盤部と、ウラと敵の司令官がいるワープコアの室は切
り離され、宇宙空間へ落ちていった。敵の司令官は、古代の遺物の鍵を
あけた。中の本体は、カラだった。
 ウラは、見つからないように、息をひそめていた。
 切り離された円盤部に向かって、イナゴの大群が群がった。
 
               ◇
 
 ブリッジ。
「通常エンジン」と、チェコフ。「補助装置のパワー切り替えに成功!」
 敵が3名、銃を撃ちながらブリッジに侵入した。チェコフは、イスか
ら投げ出された。
 船長席のカトウは、銃を向けられて、立ち上がった。
 そのとき、敵は3人とも、後ろから撃たれて倒れた。
 銃を構えたカークが入ってきた。
「船長!」と、チェコフ。異星人の女性船長も見ていた。
「円盤部には、あと、なん人いる?」と、カーク。

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59
























































「ゼロ」と、カトウ。パネルを操作した。「このデータの通りなら。敵
にさらわれました」
「船長!」と、チェコフ。「惑星の引力につかまって、離脱は、不可能
です!」
 スクリーンに、惑星の地面がせまった。
「脱出ポッドに乗れ!」と、カーク。
「はい、船長!」と、チェコフ。
「来い!行くぞ!」と、カトウ。
 ブリッジにいたクルーは、ひとりづつ、ブリッジに備え付けのひとり
用脱出ポッドに乗り、船外へ発射された。
 異星人の女性船長も、クルーに案内されて、脱出した。
 円盤部は、大気圏に突入した。追ってきた敵の小型艇は、次々に燃え
尽きて、墜落していった。
 カークも、最後に、脱出した。
 カークの脱出ポッドからは、円盤部が山岳地帯を抜けた、森林に不時
着するのが見えた。
 円盤部の背後に、最後の敵の小型艇が無数の筋を引いて、燃え尽きて
墜落するのが見えた。
 スコットの乗った魚雷は、同じ山岳地帯に不時着した。がけふちに止ま
った。外へ出ようとしたが、魚雷は、がけから落ちて行ったので、かろう

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61
























































じて、ふちに右手だけでつかまった。やっと左手もふちにかかったが、がけ
ぶら下がったまま、どうしようもなかった。
 
               ◇
 
 惑星の森林。
 チェコフは、脱出ポッドから出た。服は、ヨークタウンのブルー系で、
クラシカルな海軍将校の制服に着替えていた。銃を装着した。
「チェコフ!」と、カークの声。チェコフは、その方向に歩いていった。
 
               ◇
 
 惑星の森林。
 異星人の女性船長は、脱出ポッドから飛び降りた。
 そこへ、カークが現われた。服は、ヨークタウンのブルー系で、クラ
シカルな海軍将校の制服に着替えていた
「知ってたな、敵の攻撃を!」と、カーク。
「いいえ、そうじゃないの!」と、異星人の女性船長。
 カークは、銃を構えた。
「船長!」と、チェコフ。カークの後ろに来た。

64

63
























































「はい」と、異星人の女性船長。「ウソをつきました。われわれの船が
攻撃されて」
「チェコフ、生存者と連絡をとれ!」と、カーク。
「はい、船長!」と、チェコフ。
「やつは、だれだ?」と、カーク。
「名前は、クラル。わたしのクルーもとららえられた。あなたのクルーも
同じよ!」
「なぜ、船の構造を知ってた?」
「わたしは、ただ、彼の言う通りにすれば、仲間を解放すると言われて」
「チェコフ、スキャナーに反応はないのか?」
「なにも出ません!」と、チェコフ。「もしも、みんな」
「いや」と、カーク。「違う。さらわれたんだ!」
 異星人の女性船長は、立ったまま、ふたりを見ていた。
「まず、円盤部をさがそう!」と、カーク。「トリコーダーより、ずっ
と、スキャン能力が高い」
「はい、それなら、もっと、正確です」
「船長!」と、異星人の女性船長。「わたしは、部下を守っただけです」
 カークは、まったく納得がいかなかったが、しぶしぶ銃を降ろした。



66

65
























































            2
 
 イナゴの大群は、山岳地帯の基地に戻ってきた。
 一帯が切り開かれ、黄の丸い建物が9つあった。
 そこには、誘拐された、多くの赤や黄や青のクルーたちが、行列をな
していた。行列は、長々と蛇行して、1つの建物に誘導されていた。
 その建物の地下内部に収納された、円盤部から切り離されたワープコ
アの室のドアがひらき、ウラが出てきた。赤の制服のままで、敵の兵士
が見ていた。
 建物の内部は、地下深くまで続くホールになっていた。暗いホールの
階段を、クルーたちが行列をなして降りていた。
「テイト、サパアナス(船長を捜しています)」と、敵の隊長。敵の司
令官に。
「おまえの名前は?」と、敵の司令官。ウラに。
 ウラは、行列を見上げて、立ちつくしていた。
「なぜ、わたしたちの言葉を?」と、ウラ。
「おまえらのことは、知っている!」と、敵の司令官。
「USSエンタープライズ、ニオタウラ中尉」と、ウラ。「あなたが戦
争をしかけたのは、惑星連邦」
「惑星連邦!」と、敵の司令官。「連邦こそが、戦争行為そのものだ!」

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「あなたが、攻撃してきた!」と、ウラ。
「あの船長」と、敵の司令官。「おまえは、なぜ、あの船長のために犠
牲になった?」
「仲間は、助け合うの」と、ウラ。「あのあと、脱出できていれば、か
ならず助けにくる!」
 敵の司令官は、顔を、ウラにぶつかるくらいに近づけた。
「では、その時を楽しみにしているぞ、ウラ中尉」
 そう言い残して、敵の司令官は、その場を後にした。
 
               ◇
 
 惑星の山岳地帯。
 イナゴの大群が、遠くの空をなんども旋回していた。
 谷に不時着した敵の小型艇のドアをあけて、マッコイが顔を出した。
「なんてことだ!」と、マッコイ。小型艇から飛び降りた。
 谷には、雨水が、足のかかとの高さまで溜まっていた。
 スポックが小型艇から出ようとしたが、右わき腹に鉄の破片が刺さっ
ていて、出られなかった。
「スポック、だいじょうぶか?」と、マッコイ。手助けした。「こっち
に座れ!よし、ゆっくり」

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 マッコイは、スポックを小型艇の上に横にならせた。
「よし、それじゃ、力を抜け!だいじょうぶだ」と、マッコイ。スポッ
クの右わき腹を診察した。
「ムリに明るく話しているところを見ると」と、スポック。「あなたは、
そうすることで、患者を安心させ」
「冗談はよせ!」と、マッコイ。
「ドクター!」と、スポック。「私は、このような場合、冗談を言う余
裕を感じませんが」
 スポックは、立ち上がろうとした。
「おい、どうするつもりだ?」と、マッコイ。
「早く、移動しなくては!」と、スポック。
「破片がわき腹に刺さっているんだぞ!」
「時間が重要です!」
「おまえの体もだ!この破片を取り出せないと、おまえは死ぬ!だが、
破片を抜いても、止血できないと、やっぱり死ぬ!」
「魅力的な選択肢では、ありませんね!」と、スポック。
「ああ、だいぶな。分かっている」と、マッコイ。小型艇から雷光銃を
捜してきた。「で、オレの記憶が確かなら、バルカン人は、オレたちの
肝臓の位置に、心臓があるんだよな?」
「そうです、ドクター」と、スポック。

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「だったら、説明がつく」と、マッコイ。「あと、もう1インチ、左だ
ったら」マッコイは、小型艇からヤリのような細長い破片を引き抜いた。
「しかし、さっぱり分からん。やつら、なんで、襲ってきたんだ?あの
グレムリンが、突っ返した、ガラクタを奪いとるためか?」
 マッコイは、石でたたいて、雷光銃の先をとがらせた。
「理解できないからといって」と、スポック。「決めつけるのは、早計そうけい
です、ドクター。彼らには、ガラクタ以上の価値があるのでしょう」
「まったく!オレのことをバカにしやがって!」と、マッコイ。
 先をとがらせた雷光銃を左手に持ち、ヤリの先端を、雷光銃で真っ赤に
熱した。
「よし!」と、マッコイ。
 横になっているスポックに、真っ赤に熱したヤリをかざした。
「じゃ、スポック。ひとつ質問がある。好きな色は、なんだ?」
「なぜ、この状況で」と、スポック。
 マッコイは、真っ赤に熱したヤリを、スポックの右わき腹に突き刺し
た。
「ギャーッ!」
 マッコイは、スポックの右わき腹から突き刺さっていた破片を取り出
した。
「別のことに気をとられていると、痛まないらしい!」と、マッコイ。

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「あなたの言葉を使って言わせてもらえば」と、スポック。「そのよう
な理由は、じつに、バカげている!」
 マッコイは、不気味な空を見上げた。
「さぁ、移動するぞ!立て!」
 マッコイは、スポックの腕を自分の肩にまわして立ち上がらせた。
 
               ◇
 
 惑星のがけの下。
 スコットは、赤の制服のまま、コケでおおわれた巨岩のあいだを歩い
てきた。がけふちにブラ下がった状態から、脱出することは、クライムス
ポーツ選手でも不可能だった。スコットは、乗っていた魚雷の落ちた場
所を見つけると、走りよって、中をのぞいた。「ない!」と、スコット。
近くに落ちていた、携帯無線機を手にした。送信しようとあけると2つ
くだけ散った。「冗談だろ?」
 そのとき、山賊が3人、こん棒を持って現われた。
「こんちわ!」と、スコット。「オレは、モンゴメリースコット!それ
で、あんたらは?」
 山賊のひとりが、こん棒を持ち上げた。
「気をつけろよ!」と、スコット。「オレが本気出したら、すごいんだ

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ぞ!」ファイティングポーズをとった。
「アローワ、イルアナ!」と、別の女剣士。背中に、棒を持って現われ
た。「ムアナ、ムッツァ!」
「チャッカー、ムチア」と、山賊のひとり。
「ジャニガー、トゥワドゥ!」と、女剣士。「バミラ、ウ!」
 女剣士は、手裏剣を2つ投げた。手裏剣は、山賊たちを囲むように飛
ぶと、女剣士の分身となって、棒で、攻撃を始めた。分身は、レーザー
でできていて、山賊たちが殴ろうとしても、実体がなく、空を切った。
山賊たちは、棒で倒された。
 女剣士が短剣を、山賊のひとりの首に突きつけた。
「スイカ!」と、女剣士。「アーッ!」
 ほかのふたりも、立ち上がると去っていった。
「アーッ!」と、スコット。「2度と来んな!」山賊たちに叫んだ。
「へへ、思い知らせてやったな!」
 女剣士は、落ちていた魚雷の部品を拾った。
「あ、それは、宇宙艦隊のものだから」と、スコット。
 女剣士は、短剣をスコットに向けた。
「あ、でも、今日は寛大な気分だから、持っていっていいよ!」と、ス
コット。
「それ、どこで、もらった?」と、女剣士。スコットの艦隊バッジを見

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77
























































た。
「それ、英語?」
「ひとりで習った━━━それ、どこで?」
「艦隊の階級章?」
「どういう意味?」
「宇宙艦隊の仕官という意味。オレは、技術者だ」
「技術者?」と、女剣士。
「そう、物を直す」と、スコット。
「技術の意味、わかる!」と、女剣士。ほかの部品も、拾った。
「きみは、オレの船を攻撃した連中の仲間じゃないな?」と、スコット。
 女剣士は、答えの代わりに、ツバをはいた。
「やっぱりな」と、スコット。
「やつは、クラル。やつと、やつのイナゴたち、ずっとさがしてた。古
代の遺物を。それが、あなたがここにいる理由。私も、みんな、そのせ
い」
 女剣士は、魚雷から、部品を引き抜いた。
「さっきの山賊もか?」と、スコット。
「あいつら、みんな、空から落ちてきた」と、女剣士。「わたしや、あ
なたのように。いっしょに来て!今!」
「ちょっと待って!こっちにも、都合が」と、スコット。「仲間をさが

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さないと!」
「あとで仲間をさがすの手伝うから、あなたも手伝って!」
「なにを?」
 女剣士は、魚雷の排気管で直す動作をした。
「なんか、直すのか?」
「そう、助けたら、助ける」
「今日はほかにどうしようもなさそうだし、ついてくよ!」
「よし!わたし、ジェイラ。あなた、モンゴメリースコット?」
「そう、スコットだ」
「今、来て!スコット!」と、ジェイラ。部品を両手に持って、走りだ
した。
「おい、待って!」と、スコット。
 
               ◇
 
 惑星の森林。
 異星人の女性船長を先頭に、カークとチェコフが森を進むと、前方の
山岳地帯が始まるところに、円盤部が墜落していた。
「エンタープライズです」と、チェコフ。「もしかしたら、もう、ブリ
ッジに送るパワーがないかもしれません、船長」

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81
























































 森を漂う、たんぽぽの綿毛が、カークとチェコフを取り囲んでいた。
「まだ、どこかしらに」と、カーク。「残ってるはずだ。それに、
る!」
 
               ◇
 
 山岳地帯。
「マッコイより、エンタープライズ!どうぞ!」と、マッコイ。無線か
ら応答はなかった。「おい、ゆっくり行けよ、スポック!さっきのは、
ほんの応急処置だぞ!」
 ふたりは、岩場をくぐって、洞窟の前に出た。
「分かっています、ドクター」と、スポック。
 奥の洞窟から、こうもりが百羽飛んできた。
「ファンタスティック!」と、スポック。
「不吉で、暗くて、危険だ!」と、マッコイ。
 スポックは、洞窟に向かった。
「入るんだな!」と、マッコイ。
 上空を、敵の小型艇が3機、飛び去った。
 奥の洞窟は、地下の神殿のようになっていた。
「興味深い」と、スポック。神殿の天井を見た。「この紋様もんようは、攻撃で

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83
























































奪われた、古代の遺物の紋様もんようと同じだ!」
「では、もとは、ここから?」と、マッコイ。
「そのように、見える」と、スポック。傷の痛みに、倒れた。
「だから、言ったろ!」と、マッコイ。スポックを、抱き起こした。
「よし、ゆっくり!」
 
               ◇
 
 山岳地帯。
「早く!」と、ジェイラ。走って、岩場をのぼってきた。
「まだ、先か?」と、スコット。両手に、部品を持っていた。
 ふたりが通過すると、監視装置が点滅した。中生代の昆虫が3匹、飛
び去った。
「なんどもきかないで!」と、ジェイラ。
「ごめん!」
「こっちの方向!来て!」
 ジェイラは、洞窟の中の暗い家へ入っていった。
「気をつけて!」と、ジェイラ。「わたしのわなに、引っかからないで!」
 青のレーザー光線が、波のバリアを作っていた。
「ああ、頭いいね!」と、スコット。「なんだ、ここ?」

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「わたしの家」
「きみん?」と、スコット。暗い天井を見上げた。「ちょっと、待て!
これ、船だろ?」
「あなたの友達さがすの手伝うから」と、ジェイラ。「これ、直すの手
伝ってほしい。この星、出てゆくために!」
「これ、きみの船か?」
「いいえ、スコット」と、ジェイラ。「あなたの」
 ジェイラは、ライトで船の紋章を照らした。そこには、こう書かれて
いた。
 USSフランクリン NX326。
「驚いた!」と、スコット。
 
               ◇
 
 墜落した円盤部。
 異星人の女性船長を先頭に、カークとチェコフが来た。
 夜の暗闇に、あちこちに燃えている火が残っていた。
「船長」と、チェコフ。「まだ、パワーが残ってますよ」
「よし、ブリッジから、クルーを捜そう!」と、カーク。
 暗い谷を、敵兵が2人、緑に輝く銃をかざしながら、通っていった。

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 3人は、円盤部の割れ目から入って、暗いブリッジに来た。
「スクリーンは、無傷です、船長」と、チェコフ。「こっちに、パワー
をまわしてみます」
「手早く、やれ!」と、カーク。「ここで動きがあれば、やつらに気づ
かれる」
 キーっという機械音がした。いくつかの画面が点灯した。
「あー」と、チェコフ。
「どうだ、見つかるか?」
「はい、船長。スキャナーを調整して、クルーの信号をさがせば」
 カークは、黙って見ている、異星人の女性船長のところにきた。
「いっしょに来い!古代の遺物を隠してある」と、カーク。
 
               ◇
 
 山岳地帯の敵の基地の牢獄。
 小さな宇宙人が、強酸性の鼻水を口から吐くと、鍵が、完全に溶けて
ひらいた。
「すごい鼻水だな!」と、カトウ。
「助かったわ、キーンザー!」と、ウラ。
 キーンザーは、手で口をぬぐうと、うなづいた。

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89
























































「よし」と、カトウ。「つぎに見張りが回ってくるまで、15分だ!そ
っちを!」
 カトウと機関部員が鉄の扉をとびら持ち上げた。
 ウラとカトウが、通路に出た。
「よし、行こう!」と、カトウ。
 暗い壁の向こうに、敵兵が2人歩いていた。
「こっち!」と、ウラ。
 敵基地のセンサースクリーンが並んでいる室に来た。
「マゼラン探査機だ!」と、カトウ。「連邦が、昔、星雲探査に使って
いた」
「これを、クラルは、なにに?」と、ウラ。
 カトウは、探査機のケーブルをたどって、ウラに目で合図した。
 敵の2人の見張りを、やり過ごし、ふたりは、ケーブルの先の機械室
に来た。
「分かるか?」と、カトウ。
「探査機同士の、亜空間リンクを、傍受ぼうじゅしてるわ!」と、ウラ。スクリ
ーンを見た。
「救難信号を送れないか?」
「やってみる!」と、ウラ。パネルを操作した。「送れた!」
 カトウが、隣のスクリーンを見ると、ヨークタウン基地が映っていた。

92

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「ヨークタウンのデータを読んでるぞ!」と、カトウ。
「え?」と、ウラ。隣のスクリーンを見にきた。
「艦隊のデータファイル、すべてだ!エンタープライズのも!」
「ずっと、わたしたちを見張っていた!」と、ウラ。
 緑に輝く銃を持った敵兵が、3人、ウラとカトウを取り囲んだ。
 
               ◇
 
 墜落した円盤部。
 暗い通路を、カークと異星人の女性船長が進んできた。
「船長」と、異星人の女性船長。「古代の遺物は、ずっとここに?」
「クラルに渡すわけにゆかないから」と、カーク。「ここに隠した」
 通路の床にかがんだカークを、異星人の女性船長は蹴り倒した。そし
て、銃を奪って構えた。
 落ちていた無線機を拾うと、呼びかけた。
「クラルに伝えて!古代の遺物を手に入れたと!」
 無線機を捨てると、銃でカークをねらったまま、床をあけた。
「わたしの悲しい話を信じたのね?」と、異星人の女性船長。
 床の下は、カラだった。
「全部信じたわけじゃない!」と、カーク。

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93
























































 背後に、銃の装填音。
「フェーザー銃を、降ろせ!」と、チェコフ。異星人の女性船長の背後
から。「たのむ!」
 異星人の女性船長は、銃を捨てた。
「どうだ、チェコフ?」と、カーク。立ち上がった。
「通信先の座標を、取得しました」と、チェコフ。
 カークは、異星人の女性船長を突いて立ち上がらせて、チェコフの横
に立った。
「クラルは、なぜ、あれが、欲しいんだ?」と、カーク。
「あなたがたが、自滅しないため」と、異星人の女性船長。
「船長!」と、チェコフ。2人の敵兵が現われたので、銃撃戦になった。
 カークとチェコフは、撃ちながら、傾いた通路を逃げた。
 異星人の女性船長と2人の敵兵は、ふたりのあとを追った。
 カークとチェコフは、息を切らしながら、傾いた通路をあがってきた。
「大丈夫か?」と、カーク。
「はい、船長!」と、チェコフ。「でも、行き止まりです!」
 カークは、通路の隔壁からのぞくと、異星人の女性船長が雷光銃を撃
ってきた。
「これ、起動できるか?」と、カーク。
「まさかと思いますが、通常エンジンをですか?」と、チェコフ。

96

95
























































「ああ、ほかにアイデアがあれば、聞くぞ!」
「分かりました!じゃあ」と、チェコフ。パネルを操作した。
 カークは、通路の隔壁から銃を撃った。敵兵も撃ち返した。
「問題があります。船長!」と、チェコフ。
「なんだ?」と、カーク。
「燃料はあるんですが、点火ができません!われわれは、巨大な爆弾の
上に立っているのも同じです!」
 ふたりは、巨大な通常エンジンの真上にある階段のコントロールパネ
ルにいた。
 カークは、銃で下をねらった。
「もし、コンプレッサーをはずせば」と、チェコフ。
「はずさないから、大丈夫だ!」と、カーク。
「だいたい、どれが、コンプレッサーか、分かります?」
「四角いのだろ?」
「違います!まるいやつです!」
「そうだよ、まるって言ったよ!」
 カークが、フェーザー銃を撃つと、エンジンの噴射口から炎が噴出ふきだ
た。
 炎は、つぎつぎに点火を誘発して、巨大な炎となった。
「走れ!」と、カーク。

98

97
























































 ふたりは、通路をころがり、走った。
 通路は、ところどころ、破壊されて床がなく、立ち止まると、敵兵が
撃ってきた。
 異星人の女性船長が雷光銃を撃ってきた。
 ふたりは、床のない通路を飛び越えて、逃げた。
「ハッ!」と、異星人の女性船長。床のない通路を飛び越えて、追った。
 通常エンジンがすべて点火されて、円盤部は、水平に上昇を始めた。
 ふたりは、ブリッジに来た。
「チェコフ!」と、カーク。ブリッジの正面窓を、銃撃で割ると、そこ
へジャンプして、外の外壁をすべっていった。
 追ってきた異星人の女性船長と、敵兵も、カークたちを追った。
 円盤部の外壁をすべり降りながら、カークは、銃撃した。
 異星人の女性船長と、敵兵も、外壁から銃撃していた。
 円盤部は、バランスを崩して、ひっくり返ろうとしていた。
「チェコフ!逃げろ!」と、カーク。円盤部から飛び降りて、逃げた。
 異星人の女性船長も飛び降りたが、振り返ると、円盤部がおおいかぶ
さってきた。呆然としていたが、直前で身をかわした。
 円盤部は、林の木々を押しつぶした。
 カークとチェコフは、背後の爆風でジャンプした。
 

100

99
























































               ◇
 
 山岳地帯の敵の基地。
 カトウとウラが、銃を構えた敵兵に、牢獄ろうごくの室に連れてこられた。
 その室は、何本ものケーブルが垂れ下がり、囚人が吊るされていた。
クラルがいた。
「おまえたちは」と、クラル。ひとりごとのように、しゃべった。「果
たして本当の意味での、犠牲というものを、理解しているのか?争いは
存在すべきではないと、連邦は教えてきただろ?」
 クラルは、カトウとウラのいる方に顔を向けた。
「だが戦うことなく、自分が何者か、真に知ることはできない」
「ぼくらが、何者か、知らないだろう?」と、カトウ。「だが、すぐに
分かる!」
「おまえらが送ったと思っている、救難信号か?」と、クラル。「座標
は、変更しておいた。救援部隊は、星雲で道を見失い、ヨークタウン基
地の警備は薄くなる」
「ねらいは、ヨークタウンか?」と、カトウ。
「何百万もの連邦市民が」と、クラル。「手に手を取り合い、仲良く生
きている。格好の標的だ!」
 クラルは、顔を、ウラに近づけた。

102

101
























































「間違っている!」と、ウラ。「団結は、力よ!」
「ハハ」と、クラル。「確かに、中尉。ほかの者たちの力を団結させた
方が、オレの力になる!」
 クラルは、クルーが吊るされているケーブルを引っ張った。赤と青の
囚人は、叫び声をあげた。
「やめて!」と、ウラ。
 銃を構えた敵兵がいて、助けようがなかった。
 
               ◇
 
 山岳地帯。朝陽が山々にのぼっていた。
「スポック!」と、マッコイ。「おい、起きろよ!」
「私は、ずっと目覚めていた」と、スポック。目をあけた。「死につい
て、考えていただけです」
「ずいぶん、哲学的だな!」
 ふたりは、洞窟の神殿の壁に寄りかかって座っていた。
「大量出血すると、そうなるんだ」と、マッコイ。
「なぜ、ウラ中尉と別れたか、きましたね?」と、スポック。「考え
たんです。バルカンの1員として、種を存続させる義務があると」
「だから、バルカン人と子どもを作ろうって?」と、マッコイ。「ああ、

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そりゃ、ウラもおこるわけだよ」
「もっとよく話し合おうとも思いましたが、その矢先やさきに、ある知らせが
届きました」
「どんな知らせだ?」
「スポック大使の死です」と、スポック。
「ああ、それは、残念だったな」と、マッコイ。「どんな気持ちになる
か、想像もつかんな」
「スポック大使のように、なんども人生を生きれば、死への恐怖は、非
論理的だ」
「死への恐怖が、オレたちを生かす、源だみなもとぞ!」と、マッコイ。
「私も、スポック大使のように生きたい!だから、決断しました。私は、
彼の遺志い しを引き継ぎます。ニューバルカンで」
「艦隊を離れるのか?」と、マッコイ。
 スポックは、答えなかった。
「それで、カークはどう言っているんだ?」と、マッコイ。
「カークと話す機会は、まだ」と、スポック。「ありません」
「まぁ、絶対、おこると思うけどな」と、マッコイ。「だって、おまえが
いなけりゃ、カークは、なにもできない!オレは、おまえが船を降りる
となりゃ、大喜びだけどな!」
 スポックは、それを聞いて、突然、笑い出した。

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「おい、待てよ!譫妄ぜんもう状態か!」と、マッコイ。
 
               ◇
 
 山岳地帯。
 大きな岩を、チェコフが飛び降りた。カークがそれに続いた。ふたり
とも息を切らして、ブルー系のヨークタウンの制服の前をあけていた。
「通信先の座標までは?」と、カーク。
「まだ、少しあります、船長」と、チェコフ。立ち止まって、カークを
見た。「いつ、あの女性船長の真意に気づいたんですか?」
「そのときには、手遅れだった」と、カーク。また、歩き出した。
「でも、どうやって?」と、チェコフ。カークに続いた。
「だって、危険には、生まれつき、他人ひ とより敏感なんだ!」
「ハハ」と、チェコフ。
 そのとき、岩場のわなが起動して、茶の煙幕におおわれた。
「逃げろ!」と、カーク。
 
               ◇
 
 ジェイラの洞窟の家。

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 ジェイラとスコットが作業しながら、軽快なロックサウンドが鳴って
いた。
「これ、音楽か?」と、スコット。「どっから聞こえているんだ?」
「そこ!」と、ジェイラ。スクリーンのひとつを指さした。「小さい箱、
電源につないだら、小さい口が歌い出した」ジェイラは、1本のケーブ
ルを床に接続した。
「ハハ」と、スコット。音楽スクリーンを見に行った。「やるもんだな!
だいぶ、古い時代の音楽だし、やかましくて、気が散るけど、音はいい
よ!」
「ビートの叫び声が好き!」と、ジェイラ。ケーブルの接続を調整した。
「音、とめて!」
「いや、いいよ!」
「とめて!」
 スコットは、音をとめた。警報音が聞こえた。
「だれか、わなにかかった!」と、ジェイラ。
 
               ◇
 
 山岳地帯。
 ジェイラは、わなの近くに来ると、背中の剣を抜いた。スコットは、石

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を手にした。大きな岩をまわると、わなが見えた。
「船長!」と、スコット。
「知ってる人?」と、ジェイラ。
「ああ、そう、こっちの若い方は、チェコフ」
「どうも」と、チェコフ。
 チェコフとカークは、茶の煙幕が凝固して、手を上げた状態でつかまっ
ていた。
「そして、こっちのハンサム野郎は、ジェームズTカーク」と、スコッ
ト。「仲間だ。会えてよかった!」
 ジェイラは、スコットを押しのけて、わなの前で、剣を調整した。
「なにする気だ?」と、カーク。
「痛めつけるなよ!」と、スコット。
「やめさせろ!」と、カーク。
 ジェイラは、剣でわなを突くと、一瞬で崩れ去った。
 チェコフとカークは、岩に叩きつけられた。
「自由よ、ジェームズT」と、ジェイラ。
「スコット!」と、チェコフ。抱き合って、肩を叩いた。
「スコットの新しい友達か?」と、カーク。やっと、立ち上がった。
「いい玄関マットじゃないか!」
「ジェイラです!」と、スコット。彼女を、紹介した。

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「玄関マットって、どんなもの?」と、ジェイラ。
「ほかのみんなは?」と、カーク。スコットに。
「まだです。だれとも会ってない」と、スコット。「なんで、オレたち
が、攻撃されたんですか?」
「古代の遺物が、敵のねらいだ!」と、カーク。
「奪われた?」と、スコット。
「いや」
「じゃ、船長が?」
「いや、船には置いとけなくて、脱出ポッドに」
「隠したと」
「そう」と、カーク。「いや、違う」
 スコットは、肩をすくめた。
 
               ◇
 
 ジェイラの洞窟の家。
 ジェイラは、はしごをのぼって、ドアをくぐった。スコットが続いた。
「この船が」と、スコット。「USSフランクリンって、信じられます
?」
 カークもブリッジに入った。

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「地球の船で、初めて、ワープ4を記録!2160年代に、ガガーリン
放射線ベルトを航行中に、行方不明に!」
「ああ、習ったよ」と、カーク。パイロット席からスクリーンを見た。
「船長は、バルタザールエディソン。艦隊初期の、ヒーローだ。なぜ、
その船がここに?」
「可能性は、いろいろ。ロミュランに連れてこられたか、巨大な緑のス
ペースハンドとか。ここにあるんじゃ、ワームホールに落ちたんでしょ
う」
「飛ばせるのか?」と、カーク。
「ドライバーコイルが足りなくて」と、スコット。「EPSコンジット
が焼けてますが、ジェイラが見事、システムを復旧させました!」
「ありがとう、スコット!」と、ジェイラ。船長席に座って、片足をひじ
かけに置いた。
「失礼」と、カーク。船長席に座ろうとして、ジェイラに先を越された。
「チェコフ!」と、カーク。「通信先の座標を使って、センサーでクル
ーを捜せるか?」
「はい、船長」と、チェコフ。技術仕官の席についた。
「そこ、船長の席!」と、スコット。小声で、ジェイラに。
「スコット!」と、カーク。「案内を!」
「はい」と、スコット。「ジェイラ、案内できるか?」

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「分かった!」と、ジェイラ。先に立って歩いていった。
 
               ◇
 
 USSフランクリンの会議室。
 長イスには、コイルや船体部品が、いくつも積み上げられていた。
 カークは、会議テーブルの脇のスクリーンで、昔のクルーの映像を再
生した。
「クルーになにが、あったのか?」と、カーク。
「なんとも」と、スコット。「100年前に死んでますし」
 カークは、室の暗い片隅を見た。
「それって、PX70だ!」
 そこに、古いオートバイが置いてあった。
「おやじが若いころに、乗っていたんだ!」オートバイの横に座った。
「母に聞いた。うしろに乗って、こわかったって」
「船長!」と、スコット。
 カークは、振り向いて、立ち上がった。
「この船」と、カーク。「ずっと、ここにあったのに、敵に気づかれて
ないのか?」
 スコットは、ジェイラに目で合図した。

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               ◇
 
 ジェイラの洞窟の家。
 屋上のフタをあけて、ジェイラに、カークとスコットが出てきた。
 屋上には、レーザー発射装置が4台あった。
「ジェイラが仕掛けた」と、スコット。「イメージ反射機です!」
 レーザーがあたると、その方向に背景の岩場が映り、船本体が透明化
された。
「つまり、ホログラムで」と、カーク。「カムフラージュしてたのか」
「そうです」と、スコット。
「船長!」と、チェコフ。屋上に上がってきた。「かすかですが、通信
用シグナルを傍受ぼうじゅしました。艦隊の周波数です!」
 
               ◇
 
 USSフランクリンのブリッジ。
 技術仕官席のスクリーンに、通信の波形が映っていた。
「発信座標は、分かるか?」と、カーク。
「なんとか。でも、どうやって行きます?」と、チェコフ。

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「考えがありますが」と、スコット。「船長の許可がいる」
「なんで、オレの許可が?」と、カーク。
「もしも失敗しても」と、スコット。「責任、負いたくない!」
 ジェイラと、カークは、肩をすくめた。
 
               ◇
 
 山岳地帯。
「マッコイとスポックより、エンタープライズ、どうぞ!」と、マッコ
イ。通信機に。「応答せよ!だれでもいい!」
 返答はなく、マッコイは、通信機をスボンのポケットにしまった。
「行こう、スポック!おまえなら、できる!」
 マッコイは、スポックの手を肩にまわして、立ち上がらせた。
「私を置いてゆけば」と、スポック。「生存の確率は、飛躍的に上がり
ます!」
「男らしい申し出だが」と、マッコイ。「そんなことが、できるかよ!」
「残ったクルーを、見つけることの方が、重要だ!」
「オレを心配してたわけじゃないのか!」
 敵の小型艇が3機、飛来した。
「もちろん、心配です」と、スポック。「尊敬の念が、伝わっていると

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思っていました。何年にもわたり、われわれがかわしてきた会話が」
「分かってる、スポック」と、マッコイ。「言わなくたって」
 敵に囲まれたので、マッコイはスポックと背中合わせに立った。
「最悪、ひとりで死ぬわけじゃなし」と、マッコイ。
 そのとき、スポックが転送波に包まれて、姿が消えた。
「お約束のパターンかよ!」と、マッコイ。
 敵の小型艇が、着陸しようとしていた。
「かかってこい!」と、マッコイ。転送波に包まれた。
 
               ◇
 
 USSフランクリンの転送室。
「え?」と、マッコイ。
「無事でなにより、ドクター」と、スコット。転送室に入ってきた。
「無事か?」と、マッコイ。お腹を押さえた。「内臓が、ひっくり返っ
ている気がする!」
「古い貨物用の転送装置ですからね」と、スコット。手を、マッコイの
肩に置いてねぎらった。「でも、整備したので、大丈夫!ただ、ひとり
づつにしました。合体したら、困るし」
 となりの室に、カークとスポックがいた。

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「想像するだけで、最悪だな」と、マッコイ。
「よく、戻った!無事か?」と、カーク。
「オレはな」と、マッコイ。「スポックは、重傷だ!」
「任務には、差し支えありません、船長」と、スポック。
「バカげたことを、言うな!」と、マッコイ。
「船長」と、スポック。「盗まれた古代の遺物は、本来、この星のもの
でした」
 スポックはよろけたので、マッコイが支えた。
「ほら、見ろ!」と、マッコイ。「医療用の装備は?」
「こっち!」と、ジェイラ。
 ジェイラが出してきた装置のひとつを、マッコイは手にした。
 スコットは、枕を持ってきた。
「よし!」と、カーク。「横になれ!」スポックを長イスに寝かせた。
「この危機を、どう脱する?こっちには、船もない、クルーもいない。
かなり、まずい」
「今まで通り」と、スポック。「やるだけです。不可能の中に、希望を
見つける!」
「よし!まず、傷を治してから」
「船長」と、スポック。「クルーの救出が第1です」
「そのために、スポックが必要なんだろ?」

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 カークは、マッコイを見た。
「原始時代の医療器具だ!」と、マッコイ。
「ボーンズ!」と、カーク。マッコイを、手招きした。
「これが、プロトプレイザーだとしたら」と、マッコイ。「内出血が止
まるはずだ!そう望むよ!」
「みじめな心の薬は、希望のみ!」と、スポック。
「死の横で、シェイクスピアを引用してる」と、マッコイ。
 
               ◇
 
 山岳地帯の敵の基地。
 
 
 
                      (つづく)






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