サアルバの国
原作:フレドリックブラウン
アランフィールド
プロローグ
彼は、山の斜面の小屋に住んでいた。たまに、山頂に登ると、谷を見
下ろした。彼の赤いサンダルは、山頂の雪の上に、血のしたたりのよう
に、脱ぎ捨ててあった。
谷には、人々が暮らし、そして、死んでいった。彼は、人々を観察し
ていた。
彼は、あるとき、山頂にただよう雲を見た。雲は、奇妙な形をしてい
た。その形は、時々刻々変化し、船であったり、城であったり、馬であ
ったりした。ごくたまに、雲は、彼以外は、だれも見たことのないよう
な形になった。彼は、それを、夢で見ていたのだ。ただよう雲の奇妙な
かたちのなかに、夢で見たかたちを、見つけた。